熊野宏昭(早稲田大学人間科学学術院教授)
『EQ2.0』&『実践!マインドフルネス』シリーズ 刊行記念
第2回 マインドフルネスの本質:「今ここ」に気づき、現実を受け止める力
マインドフルネス瞑想は、「自分をもっと理解したい」「人間関係を円滑にしたい」といった悩みに答える強力なツールです。呼吸や身体感覚に注意を向けることで、自分の感情や思考を客観的に観察する力が養われます。さらに、周囲の状況や他者の感情にも気づけるようになり、対人関係を調整する力(EQ)も自然と高まります。
この記事では、マインドフルネスを使ってEQ(感情的知性)をどのように高めるのか、マインドフルネス研究の第一人者である早稲田大学人間科学学術院教授の熊野宏昭先生が、具体的な実践方法とともに解説します。
■マインドフルネスって?
ここからはマインドフルネスについて説明していきます。マインドフルネスとは何か、皆さんご存知ですか? 簡単にまとめると次のようになります。
この説明を見て、「マインドフルネスってたいしたことないな」と思ったかもしれません。「今の瞬間の現実に気づき、それを観察すれば、あるがままに知覚するのは当たり前でしょ」と感じる方もいるでしょう。
では、「あるがままの現実」とは何でしょうか? たとえば、夜なかなか眠れないときを想像してみてください。最初は「全然眠くならないなあ」と思い、次に「いつ眠れるんだろう。明日は忙しいのに、こういう日に限って眠れない。もう3時なのに」とイライラしながら考えが巡りますよね。
でも、この状況をあるがままの現実として眺めてみると、どうでしょうか? 「眠れないっていうのはこんな感じだったのか。いつもはすぐに眠れるのに不思議だなあ。これはこれで面白いな。眠れないんだから仕方がない。今日はこのまま様子を見ていよう」──そう思えると、けっこう冷静になれるものです。
そして、明け方に1、2時間ほど眠り、いつもの時間に起きても、それほどだるさを感じない。実は、イライラしなければ、それほど疲れないのです。眠れなくて翌日がつらいのは、イライラしていたから。「どうして俺はこうなんだ」と怒りを感じて、自分を責めることが、私たちを疲れさせる原因なのです。
★ここもcheck!
「箱の外で気づく」というのは英語で言う「think out of the box」、意味は「固定観念に捉われずに」、あるいは「自分の頭の外、思考の世界の外で」気づくことを意味します。気づきを向けるとき、その観察の仕方が「見張る感じ」になると、それはマインドフルネスではなくなってしまいます。大切なのは「見守る視点」であるということも覚えておくとよいでしょう。
■マインドフルネスとは目覚めの状態
マインドフルネスというのは、「余計なことをしないで、瞬間瞬間の自分に戻りましょう」ということです。「なんで眠れないんだ」「どうしたらいいんだ」と考えている状況は「心ここにあらずの状態」──つまり、現実を離れて自分の悩みの世界にのめり込んでいる状態です。あるがままの現実から離れていることこそが、大きな問題なのです。
そうではなく、眠れない状況をそのまま観察してみると、それはそれで面白い。このように「目覚めの状態」──現実を現実として等身大に捉えられている状態をマインドフルネスといいます。
■心ここにあらずになるわけ
では、皆さんはどういうときに心ここにあらずになるでしょうか?
一つはいろいろ考え始めたときです。考え事が頭の中で広がり、自分の思考の世界にどんどん入り込んでいく。そうなると、もうここにはいない。それが「心ここにあらず」の代表的なパターンです。
もう一つは、心を閉じてしまったときです。「嫌なことは考えたくない」「嫌なニュースは見たくない」──そうして心を閉じ、感じないようにすることで、現実から目を背ける。感じなければ現実は見えませんから、当然「心ここにあらず」になるわけです。
これは、現実が見えなくなる、自分がわからなくなる、周りもわからなくなる──という大変まずい状況です。だからこそ、「心を閉じない」「呑み込まれない」ということが、目を覚ますために必要になるのです。
「瞑想法を通してマインドフルネスを身につける」と聞くと、「集中力を高める方法なのかな?」、「ストレスを下げる方法なのかな?」と思われることが多いのですが、どちらもマインドフルネスの一部ではあるものの、核心ではありません。
マインドフルネスというのはとにかく「今の自分の状態にきちんと気づいている状態」です。ストレスが溜まっていれば「ストレスが溜まっている」と気づく、リラックしていれば「リラックスしている」と気づく。ストレスやリラクセーションの軸とは別です。マインドフルネスを実現するには集中することは必要ですが、一点集中に陥ると幅広い現実は見えなくなってしまいます。それでは、マインドフルネスの本質を捉えたことにはなりません。
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構成:中田亜希
第1回 EQとマインドフルネス:感情的知性を高める4つのスキルと体験の力
第3回 「することモード」から「あることモードへ:マインドフルネスが導く心の切り替え
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