アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

 皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは「慈悲の瞑想とヴィパッサナー瞑想の関係」についてです。


[Q]

 慈悲の瞑想とヴィパッサナー瞑想の関係について教えてください。両方とも毎日やった方がいいのでしょうか?



[A]

■完全に正しい生き方と、生きることを乗り越える道

 ヴィパッサナー瞑想はいきなり解脱を目指して実践します。慈悲の瞑想は、それだけでも解脱の方向に行きますが、確実に解脱に達するという保証はありません。慈悲は、生命がなすべき究極の善い生き方、完全に正しい生き方です。
 完全に正しい生き方で、人生を乗り越えられる人もいるし、そうでない人もいます。しかし、輪廻転生する生命にとって、唯一の目的は苦しみの流れを無くすことなのです。だったらさっさとヴィパッサナー瞑想をして解脱に達するべきです。苦しみの輪廻を脱出しなさい、ということになります。解脱というのは、二度と現れないように煩悩を滅尽することです。根絶という言葉も使います。根元から絶つということです。それで終わりです。輪廻転生に戻らないのです。

■ヴィパッサナーをする人はエゴイスト?

 ヴィパッサナー瞑想をしているのは、自分のことだけを考えている人ではありません。お釈迦様は「ヴィパッサナー瞑想をしている人々は、人類に幸福を与えている。人類の先輩である。模範になる人間である」と仰っています。実践する人には「オレは偉い」という自我は無いからです。
 ですから、人を助けたければ自我の錯覚を無くすだけです。ヴィパッサナー瞑想をする人は、敢えて慈悲の実践をしなくても、自我の錯覚を無くそうとするのですから慈悲も同時に生まれてくるのです。自分の怒り・嫉妬・憎しみを観てチェックしているのですから、生命に対して怒り・嫉妬・憎しみの反応はしないのです。

■ヴィパッサナーの前には慈悲の瞑想を

 ヴィパッサナー瞑想は結構難しいのです。慈悲の瞑想も前の説明のように、正しくやろうとすればなかなか大変です。皆さんは忙しいし、仕事もしなくてはいけないのですからある程度で結果が出るように、私は慈悲の瞑想のショートバージョンを教えています。慈悲の瞑想もして、いくらか心を落ち着けてからヴィパッサナー瞑想をした方がいいからです。
 ヴィパッサナー瞑想をする前に慈悲の瞑想もしてください。なぜなら、瞑想をしていると、脳の中でいろいろな変化が起こるからです。脳を開発して新しい神経回路がいっぱいできるので、結構錯覚が起きます。
 それから、他の生命の心の影響を受けてしまう可能性もあります。今も皆さんは他の生命の心の影響を受けていますよ。今、明るい気分でいたとしても、目の前の人の気分が悪くなると自分の気分も変わってしまいます。そのように、私たちはずっと周りの人たちの心の影響を受けて生きているのです。例えば、犬や猫など動物を見ると楽しくなったりするでしょう。なぜでしょう? 理由は犬や猫はいつでも楽しくいるからです。ですから、犬を飼っている人は犬の心の影響も受けているのです。
 ということで、私たちには慈悲の心があった方がいいのです。自分が慈悲の気持ちを作ると、周りはおのずとその影響を受けます。

■脳の錯覚が消え、他の生命の悪影響も避けられる

 ヴィパッサナー瞑想というのは、ありのままに物事を観察する世界です。その場合、人の心の影響を受けてしまうと、ありのままの観察ができなくなってしまいます。邪魔になるのです。人の気持ちに沿って物事を観察してしまうという落とし穴に陥ります。
 そもそも、人間の中でも仏教を好きな人というのはほんの僅かです。仏教を嫌いな人は、その他大勢です。みんな貪瞋痴(とんじんち/むさぼり、怒り、無知の三毒)が好きです。無知・無明が好きなのです、それで生きているのですから。妄想が大好きです。迷信も大好きです。それで生きていられます。現実は決して見たくないのです。そこから影響を受けてしまうとヴィパッサナー瞑想は上手くいきません。科学的な完璧な観察にはなりません。
 ですから、先に慈悲の瞑想をするのです。そうすると悪影響を一切受けなくなります。脳の錯覚がかなり無くなります。そうすると、邪魔の無い正しく瞑想を続けることができるのです。例え他の生命の影響を受けたとしても、それは慈しみの影響だけです。そうすると更に瞑想ができます。
 慈悲があると、人の影響を受けたとしても、修行を支える影響になるのです。そういうことで、慈悲の瞑想をしてヴィパッサナー瞑想に入った方がやりやすいと思います。


■出典 『それならブッダにきいてみよう:瞑想実践編2』   

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