【聞き手】藤田一照


ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェ 藤田一照


チベット仏教の次代の担い手であり現在の世界仏教を代表する一人であるヨンゲ・ミンギュル・リンポチェに、ご自身の生い立ち、パニック発作を克服した瞑想修行、そしてコロナ禍の世界と仏教のこれからについて、禅僧の藤田一照師が聞き手となってうかがった。

ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェ ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェ


第3回 神秘的なチベット仏教の現代的解釈

人類がそもそもみんな転生化身なのでは?

一照 チベット仏教にはリンポチェ、とかトゥルクといった転生化身を認める大変ユニークな伝統があります。未来の仏教ということを論じる場合に、この転生化身の制度ということについてどのようにお考えでしょうか?


リンポチェ つまり転生化身の制度というのは仏教の考え方に基づいていて、悟りを開くことによって得る、生きとし生けるものを助けるための三身(訳註:法身・報身・応身の三つの仏の身体、Three kayas、さんじん)の教えが背景にあります。

応身(訳注:人間や生き物と同じ姿で現れた仏や菩薩の身体、Nirmanakaya、おうじん)としての顕現である転生者、または、菩薩の生き方として、世の中に戻り人々を助けよう、と何度も何度もこの世に戻った菩薩が実際におられるわけですが、転生の制度の考えには、そういった背景があるのです。過去にさかのぼると、様々な手法によって転生者を認識することができたわけです。チベットではとても有益なもので、それぞれの系譜において多くの人々の利益になるものでした。

しかし、それが実際、現代においてはどうなのか、また将来的に本当に有益かどうかというのは、私たち自身も今、吟味検討しているところです。


一照 これはあくまでも仮定の話なんですが、実はそういうチベットの特別な人たちだけではなく、われわれは誰もが転生化身であり、一切衆生を救済するためにこの世に生まれてきた菩薩であるというふうに、チベット独特の転生化身制度を人類全体に拡張していくということは、可能でしょうか?


リンポチェ はい、もちろんです。仏教では、本質的には、全ての仏陀と生きとし生けるもの全てには、全く違いはありません。

 先ほど父の教えについて申し上げましたが、私たちには、根源的な、善なる本質というものが備わっていて、それは青空のようであり、純粋で清らかで、すでにそこにあって、とても素晴らしい資質なのです。実際のところ、誰もがみな仏陀であると教えます。でも問題は、すでに仏陀であることを認識していないこと、それが問題なのであって、認識することが悟りにつながるのです。トゥルク(認定転生者)は、転生する衆生の一部であり、皆全てが三身の現れなのです。 

ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェ ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェ

本来誰もが仏なら、なぜ修行が必要か

一照 私は日本の曹洞宗に所属しています。曹洞宗の開祖は道元禅師という方なんですが、彼は若い頃、「仏教の経典においては、人間はもともと仏性を持ち、そのままで仏であると説かれている。それなのになぜ、わたしたちはわざわざ仏になるために発心し、修行し、悟りを開くといった手続きが必要なのか?」という疑問を持ちました。当時の日本ではその問いに対して腑に落ちるような答えを得ることができなかったので、命を賭して中国へ渡りました。本来仏であるということと修行が必要であるということの関係をリンポチェはどのように理解されていますか?