名越康文(精神科医)


現代社会を生きる上で仏教を自分の人生に活かし、行動をよりよく変えていくにはどうすれはよいでしょうか。瞑想の実践者であり精神科医である名越康文先生に、仏教の実践が人生にもたらす作用や、日々のよい行いのための具体的な実践法を尋ね、仏教的な生き方の本質に迫ります。


第5回    行動変容につながる瞑想術


●アドラー心理学を実践で補完する仏教

名越    僕は、精神医学ではアドラー心理学をずっと学んでいるのですが、アドラー心理学は「対人関係の中で感情というものは相手をコントロールするために使われている」と教えます。「使用の心理学」というのですが、アドラーでは感情は道具で、対人関係で相手に怒ったり笑いかけたりというのはすべて相手をコントロールするために使用されていると考えるんですね。であれば、どうせ感情を使用するんだったら相手がいい気持ちになって自分との関係をよくするとか、あるいはちゃんと相手のことを慮って、何かを指摘して正したときでも、あとでちゃんと「あなたのプライドを傷つけたかもしれません、すみません」と謝るとか、その時々でちゃんと感情の使用の仕方を考えればいいだけじゃないですか。つまり、それは感情から降りるということでしょう。