【ゲスト】

武井浩三


【ナビゲーター】

宍戸幹央三木康司


株式会社eumo(ユーモ)の共同代表として活動されている武井浩三さんは、金銭的な価値ではなく人から得られる共感を基礎資本とする「共感資本主義」の実現に向けて、「コミュニティ通貨事業」と「共感資本社会を実現する人物を育成する教育事業」をメインに展開されている。資本価値が変わろうとしている現在において、鎌倉から何を生み出すことができるのか。Zen2.0共同代表の宍戸幹央さんと三木康司さんがナビゲーターとなり武井さんの活動にかける熱い思いを伺った。

第1回   「愛で循環する経済」のきっかけ

■Zen2.0とのつながり

宍戸    皆さん、こんにちは。Zen2.0共同代表の宍戸です。

三木    Zen2.0の共同代表の三木です。

宍戸    本日は社会システムデザイナーの武井浩三さんをお迎えしております。
     武井さんは組織づくりをはじめ、社会のシステムをデザインしたり、新しいお金のあり方を提案されるなど、幅広い分野でご活躍されていらっしゃいます。
     私たちのZen2.0も武井さんには立ち上げ当初から大変お世話になってきました。Zen2.0は2017年に第一回を開催しましたけれども、その頃から主にボランティア組織の作り方に関してお話を伺ったりアドバイスをいただいたりしております。

三木    私たちZen2.0は完全にボランティアで運営しています。こういった大きなイベントをボランティアで運営するときに何を手がかりにして作っていけばいいのかと悩んでいたとき、武井さんのやっていらっしゃる新しい形の組織が非常に参考になりまして、5年前くらいからいろいろとお話を伺ってきました。

宍戸    最近はでは、Zen2.0の継続的な運営のため、Zen2.0の事業化についてもご相談をさせていただいております。
     その会議の中で、武井さんから「愛で循環させましょう」とご提案いただきまして、それで今回のセッションに『「恐れと不安」から「愛」で循環する経済をマインドフルシティ鎌倉から』というタイトルを付けさせていただきました。
     今日は武井さんに「愛で循環する経済」について伺っていきたいのですが、まずそういったことを考えるに至った、武井さんのこれまでのキャリアや、今どんな思いで様々な活動されているかというようなことについてお話を伺っていきたいと思っております。

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建長寺にて「愛で循環する経済」を語る
■取り返しのつかない失敗をする

武井    皆様よろしくお願いいたします。本日はZen2.0という素敵な場に呼んでいただき本当に感謝しております。
     僕は14年ほど前にダイヤモンドメディアという会社を起業いたしました。一昨年、会社丸ごと後任に譲ってしまったのですけども、この会社は上司・部下を持たない。役職を付けない。社長・役員は毎年選挙で決める。自分の給料は自分で決める。給料は全部オープン。働く時間・場所・休み全部自由。という方針で、それを2007年の創業当時から本気でやってきました。
     当初はITベンチャーだったので、行け行けドンドンのIT業界の方々から、「そんな甘っちょろいことを言うな」といったようなお声も多数いただきました。
     実は僕、ダイヤモンドメディアを創業する前に、一度会社を立ち上げた経験があります。しかしそれを1年で倒産させてしまって、その経験が僕の中ではその後の生き方を変える大きなきっかけとなりました。
     自分の野心のようなものをどうにか形にしたいと思ったとき、以前の僕は物事をコントロールしようとしていたんですよね。自分の思い通りに進めたい。だから「これやれ、あれやれ」と指示をして。
     そうやって物事を進めていって、僕は大きな失敗をしました。会社をつぶしたことよりも、一緒にやっていた友人たちの人生を掻き乱して、取り返しがつかないことをしてしまったという思いが非常に強かったです。
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武井浩三さん
■仕事とは世の中のためにあるもの

武井    そこで考えざるを得なかったんですよね。仕事をする意味、会社が存在している意味とは本来何なのかと。
     考えるとけっこうシンプルで、世の中のためとか、他の誰かのためなんですよね。巡り巡って自分のためでもありますけど、とにかく自分のやりたいことをやるよりも、みんなのためになることじゃなければ、社会や経済は成り立たない。という当たり前のことに気づきまして、じゃあそういう会社、メカニズムを作っていきたいと思って、指示命令はしない。上司部下がなくても物事が回っていく。そんな仕組みのダイヤモンドメディアを作ったというわけです。

三木    いきなりそういうコンセプトの会社を始めようと思っても、どこにもお手本はありませんよね?

武井    そうですね。最近だとティール組織なども語られるようになりましたが、2007年当時は情報がなくて、ひたすら手探りでした。

三木    本を読み漁ったりとか?

武井    もちろん本も読みました。世界を見渡すとそういうことが書かれた本が少しはありましたので。
     でもとにかく具体的な事例がないので「やるしかないな」ということで、ひたすら実践を続けましたね。

宍戸    一つ参考にしたのがセムコ社だったとお聞きしました。

武井    はい、ブラジルのセムコという会社ですね。考え方などの面で参考にいたしました。それから鎌倉に日本の本社があるパタゴニアやGore & Associates、他にも名古屋の未来工業さんや広島のメガネ21さんといった日本の会社も参考にさせていただきました。

■経営学よりも自然の本を参考になる

武井    今までの経営学、いわばMBAで学ぶような経営学って基本的には競争戦略なんですよね。どうやって敵を倒すかという学問なんです、結局のところ。
     でも僕の世界観には世の中に敵なんていない。どうやってみんな仲良く助け合って生きていくのか、それを実現したい。だから経営学の本を読んでも違和感があって、それよりも自然界についての本や、農業や身体に関する情報のほうが参考になりました。

宍戸   武井さんとソニーの天外さんとの共著である『自然経営(じねんけいえい)』(内外出版社)にも、自然を参考にして組織のあり方を考えられたということが書かれていましたね。

■組織の声を聞く

宍戸    私たちがZen2.0を立ち上げるときに、武井さんに「組織の声を聞きましょう」とアドバイスしていただいたのも非常に印象深かったです。自分たちのやりたい方向だけではなく、組織やメンバーの声をしっかり聞いていくのが大事である、それが私たちZen2.0に対する最初のメッセージだったと思います。
     武井さんご自身も、自分の声だけではなく、もっと大きな声を聞くことを大事にして組織作りをされてきたのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

武井    そうですね、「自分はこうしたい」という自分の思いはもちろん大切ですが、ちょっと俯瞰して見てみると、そこに集まっている人の数だけ「自分はこうしたい」という思いがあるわけなので、それをまず場に出すことが大事だと感じています。
そうすると、面白いことにほとんど対立は起きないんですよ。みんなが大事にしているものが見えてくると、自然に方向性が生まれてきて、自然と一体感が醸成されるんです。
この世界観は西洋的というよりはすごく東洋的だなと感じています。仏教の色即是空の考え方などが近いと思いますね。

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2021年9月18日 鎌倉にて
構成:中田亜希

はじめに第2回    自然体で「好き」と「楽しい」を追求する