小野常寛(普賢寺住職)
聖地ブッダガヤで開催された国際サンガフォーラム2023に参加され、世界で活躍する僧侶の一人として壇上でスピーチを行い、ダライ・ラマ法王にも謁見、各国僧侶ともリアルに交流を図り、世界仏教の潮流を肌で感じられた小野常寛師(天台宗・普賢寺住職)によるレポートをお届けします。全4回連載の第2回です。
第2回 [パーリ/サンスクリット]という新しい分類が世界を再編成する
■上座部ではなくパーリ、大乗ではなくサンスクリット
まず、スピーチをする僧侶たちが、[上座部/大乗]という分類ではなく、[パーリ/サンスクリット]という分類を大前提としてスピーチをしていたのが印象的であった。
日本仏教の文脈では、大乗仏教である伝統仏教と上座部仏教の溝は深い。まるで違うもののように扱っている傾向すら感じることが多々ある。
しかし、このフォーラム内においては、その違いを溝ではなく、理解すべき空白のように捉え、互いに敬意を示していることがオーディエンスにも伝わってきた。分裂の歴史が消え去るわけではないが、「言語の違い」として双方の違いを捉えることができれば、これからの相互理解や交流促進が加速度的に進むということを肌で実感できたのであった。
本フォーラムに集った僧侶は国内外で非常に影響力のある僧侶ばかりである。この意識を各々が各々の場所で発信していけば、それぞれの地域での交流がますます活発になるだろう。
仏教の分類の仕方も本フォーラムを機に変化する可能性が多いにあると推察される。
本フォーラムに集結した世界各国の僧侶
■「空」を認識するパーリ圏
「テーラワーダでは無我を大切にしているが、サンスクリットではナーガールジュナ以来の空を大切にしている」という発言をパーリ伝統である僧侶から聞くことがあった。「空」も「仏性」も上座部仏教には無い概念だと思っていたので、この発言を聞いたときには驚いた。そして、ナーガールジュナのことをパーリ圏の僧侶が知っていることにも驚いた。