アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「お釈迦様にはサバイバルのノウハウがあったのか?」という質問にスマナサーラ長老が答えます。

[Q]

    お釈迦様は、野外生活・ジャングルでの生活でしたから、今でいうサバイバルのための薬草や医学に関する知識などがあったのでしょうか?

[A]

    まず言いたいのは、お釈迦様はなんとしてでも生きのびたいと思って出家して野外生活を始めたわけではありません。楽に生きたいと思ったならば出家しないで、在家生活を続ければよかったでしょう。生きようが死のうが、真理を発見したいと思って、出家したのです。
    王になる予定の人はさまざまな訓練を受けなくてはいけないのです。戦争する術も身につけなくてはいけません。王とは将軍でもあるのです。ひとたび戦争に出かけたら、数カ月間、野外生活するはめになるかわからないのです。もし負けて逃げるはめになったら、森の中で隠れて生きのびなくてはいけません。お釈迦様はそのような訓練を出家する以前、受けていたのです。
    王は戦う人であるだけではなく、統治する人でもあります。商人、知識人、宗教家、会計士などの人々にもアドバイスしたり監督しなくてはなりません。お釈迦様は出家する以前にそれらの知識も身につけたのです。
    出家してからはサバイバルの生活はしなかったのです。食べるものが必要になったときは、托鉢しました。そして毎日食べるのではなく、ほとんど断食しながら六年ほど苦行したのです。サバイバル術を使うどころではなかったのです。真理を発見することに必死でした。
    しかし悟ったのち、出家する弟子たちの数も増えると、サンガ組織が現れたのです。サンガは村の近郊に生活していましたが、みな基本的に乞食でした。財産になるものはなにも持たなかったのです。それで病気になったらたいへんです。医者が布施で治療しないかぎり、治療を受けないのです。せっかく出家したのに困ったことになります。それでお釈迦様がかつて身につけたサバイバル術や医学的な知識を駆使して、弟子たちを
助けてあげることにしたのです。
    出家には戒律があります。贅沢は出家するとき捨てています。戒律の範囲で、また金もかからない範囲で治療して、かかった病気を治さなくてはいけないのです。その条件のなかでお釈迦様が推薦した治療方法があります。
    律蔵経は五つのテキストでできていますが、その三番目のテキストは『Mahā vagga pāli』と言います。六章は「Bhesajjakkhandhaka」で、これは治療の章という意味です。それを読んでみるとお釈迦様の医学的な知識を発見できます。しかし推薦している治療法は戒律を守って行なえる最低限の治療です。薬草などを取って自分で煎じて飲めばいいのに、出家は葉っぱでも取ってはならないのです。必要な薬などを托鉢でいただけるように工夫しています。
    そのなかでとても面白い治療法があります。身体の調子が悪くなったら牛の尿を飲みなさい、ということです。牛の尿だけは誰にも迷惑をかけないで手に入れることができます。牛の尿は一種の解毒剤ではないかと思います。飲むことで身体の悪いところがなくなって、細胞が復活する可能性があると私は推測します。
    しかし仏教が世に広まったところで、出家が治療を受けられずに困ったことはほとんどなかったのです。「病人の看病は、釈尊自身の面倒を見るのと同じことだ」と説かれているので、在家信者が必死で看病したことでしょう。出家の体調が悪くなると、直ちに治療を布施したと思います。
    牛の尿を飲む治療は身体が病気にならないで健康を保つ、いたって簡単な方法だと思います。お釈迦様が説かれたので、間違いないと思います。しかし出家は誰も試してみる気がないようです。試してみても悪くないんじゃないかなあと思いますが、いかがでしょうか。



■出典    『ブッダの質問箱』