アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日のテーマは食事の観察です。

[Q]

    食事の観察について教えていただきましたが、実際に食べようとする時は気持ちが焦ってしまいます。自分の中で食べ物に執着していて、もっと食べたいという気持ちもあります。どうすれば少しでもマシにできるでしょうか?
 
[A]

■繰り返し真剣にやってみる

    繰り返しやってみてください。一日で成劫するとでも思ったのでしょうか?    ひとつずつ丁寧にやっていくことでじわじわと、自分が立派な人格者になっていくのです。上手くいかなくても構いません。とにかく繰り返しやってみる。例えば、忙しい時に食事をする場合でも、三十秒、一分だけでもしっかり実況中継して瞑想しながら食べてみるのです。あとは適当に嚙んで飲み込む。忙しい時にはそういうやり方でも構いません。しかし、その三十秒、一分だけは真剣・真面目に実況中継をする。そうやって訓練を積み重ねて、智慧を開発していくのです。

■存在欲があるから「食べたい」

    「食べたい」という衝動は存在欲です。では、存在欲が無い人は食べないのでしょうか?    食べます。悟った人も食べます。悟ってない人も食べています。そこで、何が違うのか発見することができます。要するに、存在欲という感情で、心が「食べなさい、もっと食べなさい」と言っている。心が煩悩で「食え」という場合は結果はどうでもいいのです。ただ食べればいいだけ。それは生理学的にも正しくないのです。存在欲が消えて悟った人は感情を乗り越えているのです。美味しく食べたい、食事を楽しみたい、などの欲が無いのです。悟った人にとって、身体は物質で出来上がっている機械に過ぎないのです。機械にはメンテナンスが必要です。食べるという行為は、メンテナンスの一つです。そのような智慧で食べる場合は、機械への過剰供給は決して起こりません。    

■運転の喩えで理解する

    今、思いついた喩えで説明します。若者が車の免許を取る。それでレンタカー屋でスピードの出る車を借ります。この若者はとにかくスピードを出したい。それでいいと思いますか?    都会ではスピードを出せないから、高速道路なんかに行って飛ばしまくる。それは正しく無い、危険な行為です。そのように、スピードを出したい・飛ばしたいという感情を優先すると交通ルールに違反してしまうのです。
    片や経験のあるプロの運転手がいます。その人もスピードは出しますが、道路や状況に応じて正しい速度で安全運転をするのです。プロも高速道路では100km/hや120km/hぐらいはスピードを出します。しかし、それはよく理解した上であって、とにかくアクセルを目いっぱい踏み込むようなことはしません。プロは車の振動や道路の状況を見て運転します。プロの運転手は、ただ運転しているだけではなく、車全体を感じて運転しているのです。車は地面に接しているので、地面と車の関係を知ってスピードを決めています。すべて把握してやっていることなのです。ですから、スピードを出しても車に何の負担も無いし、道路にも問題は無いし、周りにも迷惑ではありません。停める時も安全に美しく駐車できます。決して交通ルールに違反しないのです。
    免許を取ったばかりの若者が、気持ちだけで調子に乗ってスピードを出したいと思ったら、死んでしまう可能性が高くなります。それと同じく、私たちの「食べたい、もっと食べたい」という気持ち自体が、免許取り立てで気持ちがはやっている人と同じなのです。
食べることを瞑想でやってみると、あたかも栄養士のようなアプローチで食べることができます。一日にどれぐらいのカロリーを摂るべきかと知りたければ、この肉体の細胞の数、実際の体の重さ、代謝能力、といった項目を計算しなくてはいけません。これは欲の感情でできることではありません。おいしいから食べるというのは間違っています。あれこれ何品目も食べなくてはいけない、というのも間違いです。食べる瞑想をすると、自分の体をプロの運転手のように安全に扱えるようになります。少しずつ頑張ってみてください。

■食への「こだわり」にご用心

    ついでに言いますが、わざわざ食べる量を減らしなさいとか、食材選びにこだわってくださいとかは言いません。他の宗教の世界ではそういうことを言っているかもしれませんが。肉・魚を食べるなかれとか……そういうことは仏教では言いません。人によって食べる量や回数などが違ったとしても、それに文句を言って迷惑をかけません。ただ「観察しながら食べてみて」と、それだけです。そうすると肉体にとって一番良い、適切・適量な食事の摂り方に戻るので、それで人は幸せになれます。


■出典      『それならブッダにきいてみよう:瞑想実践編1』

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