〔ナビゲーター〕

前野隆司(慶應義塾大学)
安藤礼二(多摩美術大学)

〔ゲスト〕
朝野倫徳(阿弥陀寺)
長澤昌幸(長安寺)

慶應義塾大学の前野隆司先生(幸福学研究家)と多摩美術大学の安藤礼二先生(文芸評論家)が案内人となり、各宗派の若手のお坊さんをお呼びして、それぞれの宗派の歴史やそれぞれのお坊さんの考え方をざっくばらんかつカジュアルにお聞きする企画、「お坊さん、教えて!」の連載第6回は、時宗の朝野倫徳さん(阿弥陀寺)と長澤昌幸さん(長安寺)をお迎えしてお送りします。


(7)日本仏教の素晴らしさ


■髪型は自由

前野    ところで、時宗のお坊さんは髪は剃らなくてよいのですか?

朝野    私は少し生えていますけれども、長澤さんはきれいな僧形(そうぎょう)というか、つるつるに剃っていますね。

前野    一般人と同じで個人の趣味なわけですか?    スキンヘッドにしたければする、みたいな。

長澤    そうですね(笑)。髪の毛に対しての決まりはありませんので、本山の修行僧や職員が丸めることはありますけど、別に寺坊(じぼう)、それぞれの所属するお寺で活動している分には基本的に自由です。

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前野    やはり、浄土真宗の頃からの自由さが増した流れと合致している感じですね。

朝野    いえ、時宗と浄土真宗は少し違います。前回の浄土真宗のお二人は髪を長く伸ばされていました。あれが浄土真宗の本流です。私も浄土真宗のお坊さんの友達がたくさんいますが、信念ある方はみんなあえて伸ばされています。地域に溶け込むお寺作りをやっていらっしゃるような方の場合は、「お坊さんなのに髪を伸ばしているなんてお坊さんらしくない」と言われるのを避けるために、地元の方のイメージに合わせて丸めていらっしゃったりもしますけど。

前野    時宗の場合は?

朝野    髪型の規定はないので、つるつるに剃り上げなければいけないということはありませんが、浄土真宗のようにふさふさとした長髪の方も見たことがないですね。

前野    時宗は教えもわかりにくい感じがしますが、髪の長さについてもわかりにくいですね(笑)。

長澤    兼業されている方もいらっしゃるので、あまりつるつるだと職業にも差し支えがあるのだと思います。ですから普段はそれなりに整えて、いざというときには丸めると。学校の先生をしていらっしゃる方ですと、定年後に丸められる方もいらっしゃいます。


■お寺の後継ぎについて

──全国的にお寺の後継者がどんどんいなくてなくなっていると聞いたのですが、お二人はご子息にお寺を継がせたいと思っていらっしゃるのか、継いでもらわなくてもいいと思っていらっしゃるのか、そのあたりのお考えをお聞かせいただけたらと思います。

朝野    うちの息子は20歳ですが、いま現在、本人が坊さんになりたいと思っているかどうかはわからないです。本当に幼い頃は、和尚さんがヒーローとなって出てくる昔話を見たり、私よりもうちの父親、おじいちゃんに憧れて「将来はお坊さんになりたい!」と言っていました。
私としては、本人が時宗の僧侶になって、我が寺を守っていきたいということであればそれはそれでもいいですし、違うことをやりたい、あるは半僧半俗でいろんなことをやりながら今後のお寺の可能性を広めていきたい、というのであればそれもまた大変結構なことだと思います。いずれにしても無理に継がせるという気持ちはございません。
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20歳の御子息と(写真提供=朝野倫徳)
長澤    うちはまだ息子が1歳8カ月なのでなんとも言えないんですけど、とりあえず私が長生きしなければと思っているところでございます(笑)。
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御子息と一緒にお勤めをされる長澤さん(写真提供=長澤昌幸)
    私自身はずっとお寺で育ちましたので、仏さんがある生活が当たり前でした。ですから息子も仏さんのいるところで育てたいという気持ちはあるのですが、今は大学の教員もしておりますので、普段はごく一般的な生活をしておりまして、必要に応じて寺に帰るという生活です。檀家さんという固定したものがないお寺ということもあり、しょっちゅう衣を着て何かをすることもございません。
    ですから、子どもが育っていく中でそのあたりについては自分自身も考えなくてはと思っているところです。ただ、自分自身も実家を継いでおりませんので、継ぐことを強制することはできないです。


■おわりに

前野    皆さん、時宗のお話はいかがでしたでしょうか。朝野さんや長澤さんもお札を配っているのかとか、踊り念仏はみんなで踊るのかとか、すみません、常識もない感じで始まりましたけれども、お話をうかがって時宗に対する理解が深まりました。
    龍樹から始まった大乗仏教の「悟ろうと思っても悟れない。でも全ての人は救われるはずじゃないか」という思いの果てに、ついには「信じなくても救われる」まで到達した究極の仏教が時宗であるというように感じました。
    朝野さんが「ゆるさ」という表現をお使いになっていらっしゃいましたけど、絶対ゆるくないですよね。私も身に覚えがありまして、幸福学をやっていると「前野さんのところはゆるいですよね」とよく言われるんですよ。でも実際は全然ゆるくないんです。だから私「ゆるい」と言われるのがすごく嫌で。時宗も同じかもしれないなと変な親近感を感じつつ、今日は時宗の本質に、私なりにせまれたのではないかと思います。
    最後にお二人から皆さんに、そして未来の人たちに向かって、一言ずついただいてもよろしいでしょうか。

朝野    チベットのお坊さんに言わせれば、日本のお坊さんの修行は居士の修行のようなもの、在家仏教のようなものではありますが、私自身はそこにすごくありがたみを感じています。僧侶が家庭を持って、家族とともに悩み苦しみ、一緒に成長していく。そういうところが日本仏教が今たどり着いている境地であって、これも世界の仏教に誇っていいことなのではないかと思っております。宗派によって言い方は違いますけど、坊守(ぼうもり)さんとか、大黒(だいこく)さんとか、お寺の奥様のことを表現する言葉がいろいろありまして、日本のお寺というのは奥様方が頑張るからこそやっていけるというところがございます。
    今回出演するにあたって、「お坊さん、教えて!」のアーカイブ映像を第1回の真言宗から振り返って拝見しました。出演されている先生方が本当に自分の宗派に愛情を持って熱く語っていて、やっぱり日本の仏教は素晴らしいなと感じました。私も「南無の会」というところでは、他宗派のお坊さんと交流したり、いろいろな先生をお招きして学びの機会を持っております。宗派を超えた付き合いをいたしますと、「ああ、この宗派はこういう教えを説くんだ」とか「ここは全く違うな。でも根本になるものはやっぱり似てるな」とか、そういうことを実感いたします。
    日本の仏教も然り、世界の仏教も然り、本当に仏教というのは素晴らしいということを述べて、締めくくらせていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

長澤    今日はご縁をいただきましてありがとうございました。一遍上人は知られていても、時宗という宗派を知っていただく機会は実は少ないので、「お坊さん、教えて!」で時宗を取り上げていただけたことを、とてもありがたく思っております。
    またこの先も、皆さんとのご縁が広がっていけばと思っております。時宗総本山である遊行寺は藤沢にございます。コロナ禍が明ければお上人さんからのお札配りも再開されると思いますし、お坊さんの踊り念仏や、あるいは一般に伝承されて保存していただいている藤沢市の踊り念仏保存会主催の踊り念仏もございますので、そういったものもぜひご案内したいと思っております。11月27日の歳末別時念仏という法要もどなたでもお参りいただける法要です。コロナ禍のために人数制限などもあるかもしれませんが、遊行寺のホームページを確認いただければ、詳しい情報を逐一公開しておりますので、ぜひ参詣いただいて、直に時宗に触れていただき、知っていただくことができます。
    今後ともひとつよろしくお願いいたします。本日は本当にありがとうございました。

前野    朝野さん、長澤さん今日は本当にありがとうございました。本当に勉強になりました。これからもよろしくお願いいたします。
    次回は曹洞宗から河口智賢(山梨県耕雲院)と倉島隆行(三重県四天王寺)をお迎えしてお送りします。もしかすると、もう一人、ゲストの方がいらっしゃるかもしれません。いよいよ「お坊さん、教えて!」も終盤となってまいりました。引き続きお楽しみください。

(了)



(6)大乗仏教とテーラワーダ仏教