国府田 淳
(クリエイティブカンパニーRIDE Inc.Founder&Co-CEO、4P's JAPAN Inc. CEO[Pizza 4P's Tokyo@麻布台ヒルズ])


気候変動、戦争、格差、パンデミック、ストレスや精神疾患の増加など不確実性が高まり、心安らがない状況が続く昨今。外的な要因に振り回されずに地に足をつけて生きたい、今後のビジネスや生活を支える羅針盤を手に入れたいと考えている方は多いと推察されます。
そんな時代だからこそ、原始仏教がますます有用になるのではないでしょうか。私は日々のビジネスシーンや生活の中で、それを実感しています。
本連載は原始仏教とビジネスの親和性を描くことで、心のモヤモヤや不安を和らげる糸口を見つけてもらおうという試みです。

第2回    なぜ今、原始仏教とビジネスなのか②


4    原始仏教がビジネスに役立つかもしれないと思えた出来事

    前述した倒産の危機をはじめ、さまざまな経緯を経て私は、原始仏教を胸に日頃から「苦への対処」と「コンパッションの醸成」を自分の中の合言葉としてビジネスを行うようになりました。その結果、日々を充実して過ごせるようになったり、仕事のパフォーマンスが上がったりしたわけですが、そのことを一度言語化してみようということで、私がオフィシャルコラマーとして活動させてもらっている世界中のビジネスニュース、ランキング、テクノロジー、リーダーシップ、ライフスタイルなどの情報を発信する『Forbes JAPAN』に、「シンプルかつ論理的    ビジネスを切り拓く「仏教」の教え」という記事を寄稿したところ、たくさんの「いいね!」やコメントをいただきました。Forbes JAPAN編集長のXでも「ビジネスシーンでの仏教ブームは周期的に来ますが、もはやブームではない気がします」とコメント付きで紹介いただいたり、以下のように現役のお坊さんからも応援のメッセージをいただいたり、反響を得ることができました。

「はじめまして。浄土真宗の僧侶をしております武田と申します。Forbes JAPANで国府田さんの記事が流れてきたのをたまたま読んで、感動しました。
最近、私も仏教とビジネスの間を模索し始めているのですが、まさに国府田さんの切り口が今後の仏教には必要だと思いました。ぜひ今後ともいろいろなお話しを伺えればうれしいですm(__)m」


    ビジネスシーンで、仏教はたびたび引き合いに出されてきました。京セラ創業者の稲盛和夫氏は得度されていますし、本田宗一郎氏も仏教を重んじておられたことで有名です。かのスティーブ・ジョブズも僧侶 乙川弘文氏に師事していたことでも知られています。ですので、反応くださるビジネスマンは一定数いらっしゃるかなと思っていましたが、やはり実際のポジティブな反応、とくに現役のお坊さんからの評価はとても励みになりました。「ビジネスと原始仏教を繋げた主張を今までと違った形で提示することができれば、人々や社会の役に立てるかもしれない」と考えるにいたったのです。

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AIで生成したブッダ像
    原始仏教は、四聖諦にしても八正道にしても、非常に論理的に分かりやすくまとめられており、哲学や心理学、倫理学などを内包した統合的な体系です。また「瞑想」という思想体系を身体に内在化させる実践法もあり「悟り」についても非常にクリアな説明やステップが示されている点にも、優位性を感じました。そもそも仏教自体が宗教であるにも関わらず無神論であり、ゴータマ・シッダールタという実在の人間が説いた教えという点も、現代の時代性を鑑みても親しみやすいのではないかと思います。

    大乗仏教はブッダの思想をもとに空の理論を打ち立て、慈悲へフォーカスしている点で素晴らしく、どちらかと言えば念じるなどの親しみやすい方法でみんな一緒に極楽浄土へ行こうというスケールの大きな世界観をベースとしています。対して原始仏教は個人で励んで高みを目指しながら、時にサンガ(みんなで叡智を高めたり修行を共にしたりする集団)の力も借りるというスタンスなので、個々の多様化が尊重されかつコミュニティも重要視する現代の時代感にフィットするのではないかと思います。大乗仏教は大衆的な文化や大企業と重なり、原始仏教は個々が分散して存在するインターネット的で、スタートアップや小規模チーム、フリーランス的と言うことができるかもしれません。

    さらに教え自体も現実的な哲学や思想であり、現在の脳神経科学や量子力学とも近しい点が多いことから、今を生きる人々に受け入れられやすく、ビジネスはもちろん広く人生に活かせるのではないかと考えています。


5    本連載で主張したいこと

    本連載は原始仏教の礎とも言える「縁起」「四聖諦」「八正道」を理解・実践し、「瞑想」によって身体性を伴った学びを得、「悟り」の一端を知覚することで、「苦への対処」(=智慧)、「コンパッションの醸成」(=慈悲)を行い、それを広く社会で行われているビジネスに活用することで、サービスやプロダクト、人々の心に広くアプローチして社会的インパクトを生み出し、地球、社会、人々、動植物すべてにあたたかな配慮のある世界の実現へのつながりを提示していこうとする試みです。もちろん、昨今のビジネスで重要視されているサステナビリティ・リジェネラティブ・SDGsの素養や、社会的インパクトや持続可能性に根ざした長期的な視点、共感型のリーダーシップやストレス管理、ガバナンスなど短期的な成果にも役立てていけると思います。

1  「縁起」「四聖諦」を理解し、「八正道」を実践する。
                                                ↓
2  「瞑想」により身体性を伴った学びを得て、「悟り」の感覚を理解する。
                                                ↓
3    結果として「苦への対処」「コンパッションの醸成」につながる。
                                                ↓
4    3を得たものがビジネスを展開することで、広く社会的インパクトを生み出す。
                                                ↓
5    地球、社会、人々、動植物すべてにあたたかな配慮のある世界を実現する。

    とてもシンプルです。この後、「縁起」「四聖諦」「八正道」「瞑想」「悟り」の各々についてエピソードも交えつつ、考えをシェアさせていただければ幸いです。

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6    私と仏教の関わり

    私と仏教の関わりについて、少しお伝えさせてください。私は空海が創立した日本最古の私立学校「綜藝種智院」が起源の洛南高等学校に通っていたこともあり、若い頃から仏教は身近な存在でした。毎週、仏教の授業がありましたし、東寺の五重塔の下で学校行事の練習をしたり、夏の勉強合宿が高野山だったりといった環境で育ちました。高野山で一週間を過ごすなど、今考えると実に贅沢な体験です。

    また、お寺や仏教美術は好きで、絵仏師の親戚もいました。手塚治虫の『ブッダ』も好きで、若い時分に擦り切れるほど読んだ思い出もあります。ヴィーガンの時もあったので精進料理は大好きですし、2018年のWFB世界仏教徒会議では、曹洞宗 四天王寺の倉島隆行氏とのご縁で、精進ピザを振る舞うプロジェクトを実施させていただきました。

    さらに長年瞑想をしている関係で、ワンダルマ仏教の山下良道氏と一緒にインドで修行させてもらったり、藤田一照氏・山下良道氏・永井均氏による「哲学する仏教」の鼎談にはすべて参加したり、チベットの高僧ヨンゲ・ミンギュル・リンポチェのリトリートのお手伝いもしました。他にも松本紹圭氏にインタビューをさせていただいたり、吉村昇洋氏に精進料理の指導をいただいたりと、多くの現役僧侶の方とコミュニケーションを取る機会に恵まれています。

    とはいえ、僧侶や研究者のように仏典を精緻に読み込んだり、寺や仏像の歴史や情報に精通していたりするほどではありません。あくまでビジネスパーソンの目線で、現在のビジネストレンドや時代感を加味しながら、新しい感覚で仏教を捉えて紹介できたらと考えています。一つ言えるとするならば、昔出版社に勤務していたり、本を執筆したりしているので、その編集、執筆力を使って、原始仏教とビジネスの親和性を描ければと考えています。

    多くの方が、ブッダの説いたシンプルかつ論理的な原始仏教の教えにより、「苦への対処」「コンパッションの醸成」を行い、ビジネスでも私生活でも生き生きと輝きながら人生を全うする。そのような人が増え、繋がり合い、心穏やかな世界の実現に少しでも役に立つことができれば本望です。ぜひ本連載にて、原始仏教×ビジネスのジャーニーをお楽しみください。

「生きとし生けるものが幸せでありますように」

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インドにて(撮影=国府田 淳)



第1回    なぜ今、原始仏教とビジネスなのか①
第3回    原始仏教の到達点「悟り」とそれに至る「瞑想」の重要性①