松本紹圭(僧侶)
熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター当事者研究分野准教授)
「未来の住職塾」塾長でもあり、現在「産業僧」事業に取り組む松本紹圭氏がホストを務め、さまざまな分野における若きリーダーと対談し、伝統宗教を補完するような新しい精神性や価値観を発見してく「Post-religion対談」。今回は松本紹圭氏のたっての希望で実現した、東京大学准教授の熊谷晋一郎先生との初対談をお届けします。
第2話 近代に前近代を持ち込む
■より正確な人間像に基づいて、どう生きるのかを考える
熊谷 私が「自分が救われた」と思っている障害者運動というのは、どちらかというと近代の徹底を志向したものです。つまり、男性・白人・健常者だけが近代の恩恵に与っていて、未だ障害者たちは近代の恩恵に与っていない。だから近代的な恩恵を障害者にも普遍化するんだ、という志向性を持っているのが障害者運動です。
しかしその近代の徹底をしていく中で、「自立を目指していたはずなのに、どんどん孤立になってしまっている」という問題意識が障害者コミュニティの中に生まれていきました。
そんなとき、ちょうど私は依存症自助グループに出会って、近代のある種の補完といいますか、近代の副作用を癒していくような役割が依存症自助グループの伝統の中にあることを知りました。
よくよく調べてみると、当事者研究というのは「近代の徹底」のベクトルと「近代の補完」のベクトル、その2つの両方から影響を受けた実践だったということが後から見えてきました。当事者研究や自助グループというのは、そういう点で、宗教的なものと「近代の補完」というようなキーワードで接続しているのかなというふうに感じています。
熊谷晋一郎先生
松本 なるほど。今から前近代に回帰することは。
熊谷 できませんね。
松本 そうした前近代的要素を唯一のものとしてではなく、部分的にでも取り入れていく。たくさんの依存先の一つにしていくというのはウェルビーイングにも効いてくる感じがしますね。