(編集工学研究所所長)
再生サンガの船出に向けて
2つのメッセージを、まず届けたい。
ひとつ、出版業の仕事は容易ではなく、取次制度と再販制度でできあがっている日本の出版業界では、ほぼ自転車操業を余儀なくされるので、いつ潰れてもおかしくないということだ。私も工作舎という版元を20代後半に立ち上げて、何度も存亡の危機に出会い、再生の道を後進に委ねた。私の知り合いの多くの出版人や編集者も似たような苦難にまみれた。そのうちの3割ほどの仲間は新社や別の版元をおこしたが、大変さは変わらない。
そういう版元を、サンガがウェブメディアによるコンテンツ・リリーサーとして再出発させることになった。よくぞ立ち直ったと思う。懸命の努力をされたにちがいなく、新たな可能性に大いに期待したい。けれども昨今のネット業界はネット業界で、たいそうな過当競争にある。ゆめゆめ油断なさらぬように気を付けられたい。
ひとつ、仏教関係の本はなかなか売れない。広まらない。難しすぎるし、難しいものばかりを刊行してきた。これをどうするかということだ。もともと仏教がサンスクリット語とパーリ語でテキスト化され、それがインド・西域・東南アジア・朝鮮半島などをへてアジアに広がったのだが、その多くが中国語の漢訳仏典として日本に入り、それをきわめて日本的な読誦プロトコルで解釈してきたのが日本の仏教界なのである。鳩摩羅什や玄奘のような天才的翻訳者は出現しなかった。江戸後期の富永仲基が指摘したように、つねに後塵を拝してばかりだったのである。