武井浩三(経営思想家、社会活動家、社会システムデザイナー)
湯川鶴章(ITジャーナリスト)


社会システムデザイナーとして活動されている武井浩三さんと、テクノロジーの第一線で次のトレンドを予測し続けてきたITジャーナリスト湯川鶴章さん。Zen2.0の登壇者の中でも特にITやAIに造詣の深いお二人が、「Web3から創る、多様でマインドフルな時代の可能性」をテーマに、近未来のお金のあり方や組織のあり方、富を分かち合う方法について語り合います。資本主義社会は今後、Web3によって新しいフェーズを迎え、より豊かな世界へとつながっていくのでしょうか。


第1回    分散型の信用の仕組み


■お金が多様化する時代へ

湯川    こんにちは。武井さん、よろしくお願いいたします。

武井    よろしくお願いいたします。

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武井浩三さん(左)と湯川鶴章さん(右)

湯川    今日のテーマは「Web3から創る、多様でマインドフルな時代の可能性」です。アメリカ2代目の大統領ジョン・アダムスがかつてこんな面白いことを言っています。「私は政治と軍事を勉強する。そうすることで、私の子供たちは数学や哲学を学ぶ自由を手にできるであろうから。私の子供たちは、数学や哲学、地理、歴史、船の設計、公開術、ビジネス、農業を学ぶだろう。そうすることで、彼らの子供たちは、絵画や詩、音楽、建築、彫刻、タペストリー、陶芸を学ぶ権利を得ることができるであろうから」

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    アメリカ建国から240年あまり経ちますけども、ファウンディングファーザーと呼ばれる建国の父たちが考えたようなことは200年経っても全然達成できていません。まだ政治や軍事をやっていますし、まあ、現在はビジネスが中心かなとは思いますが、その次の絵画や詩を学ぶなんていうことができるのかなという感じです。
    でもようやくその兆しが出てきたんじゃないかなというのが今日のお話です。仕事をしなくていい時代というのがWeb3で叶うのかどうか。そんなお話を今日は武井さんとしていきたいと思っています。
    資本主義の次ってどんな社会になるのでしょうか。社会システムデザイナーの武井さんはどんな社会になると、あるいは、どんな社会になるべきだと思っておられるのですか?

武井    資本主義の次の世界を創る活動を僕は15年ぐらいやっています。そもそも資本主義とは何かというところともつながりますが、所有権というものの扱い方が変わっていくのではないかと思います。
    現代はモノが溢れている時代です。作りすぎやフードロスが問題になっていますが、これらはモノを増やしすぎたところから来ているんです。その一方で、食糧に困っている人もいます。おかしいですよね。これを均(なら)していく時代になるのは間違いないかなと思います。

湯川    所有権ですね。「もっと欲しい」という欲望をどうしていくのかということがポイントの1つであると。他にもありますか?

武井    やはり「お金」の在り方ですね。暗号資産もそうですし、僕らがやっているeumo(ユーモ)という腐るお金もそうですけど、お金というもの自体が多様化する時代に入っていくと思います。


■交換経済は終わる

湯川    お金というものは今後もなくならないんじゃないですか?

武井    しばらくは残ります。でもなくなる方向にもう既に向かい始めています。

湯川    そうなんですね。なくなったらどうやって価値の交換をしていくのでしょうか?

武井    交換経済が終わるんです。お金の本質というのは人間の労働力です。1万円あったら1万円分の誰かの労働力を享受する権利が得られます。この1万円札にはその権利がある、というのを約束しているのが政府です。国が信用を与えているのです。
    でもブロックチェーンが生まれたことによって、相手との信用関係がシステムで担保された状態になるので、交換する必要がなくなってくるんです。たとえば僕らは家族の中ではお金のやりとりをしないじゃないですか。

湯川    しないですね。

武井    家族の中ではお金のやりとりをせずとも助けるし、助けられます。それが、ブロックチェーンによって赤の他人ともできるようになるんです。

湯川    そんなことってできるんですか?

武井    はい。ブロックチェーンがあれば。


■オンラインの共有台帳

湯川    ブロックチェーンというのは、「オンラインの共有台帳」という技術です。台帳というのは、誰が誰にいくらお金を貸したとか、どの商品がいくらで売れましたといった情報を記録しているものですね。そういう台帳をインターネット上で何人かが、たとえば50人が共有します。仮にそのうちの1人が数字を改竄(かいざん)したとしても、あとの49人が、「あれ、この人の台帳だけ数字が違うぞ」ということで、改竄がわかるシステムになっています。
    誰がいくら持っているかという台帳を作れることになったので、これって通貨と同じじゃん、実際のコインとか紙幣がなくても機能するよね、ということでできたのが仮想通貨です。
    武井さん、我々が現在使用している法定通貨と言われる国の発行するお金は、ブロックチェーンの出現によってどう変わっていくのでしょうか?

武井    法定通貨というのは、国が中央集権でコントロールしているお金です。ブロックチェーンは分散型、つまり国という存在がなくても信用が成り立つ仕組みです。つまり、国がいらなくなるということになります。

湯川    確かにね。「ここに集まっている人みんなで台帳を共有しましょう。誰がいくら借りたか、貸したかを記録していきましょう」となったらもう、日本円を動かす必要がなくなりますね。だから国というのは必要なくなるという話なんですよね。

武井    そうですね。

湯川    それを目指しているんですか?

武井    僕はブロックチェーン技術者ではないですけど、そういうプロジェクトはやっています。


■法定通貨は債務貨幣

武井    もう一つ、すごく重要な要素があって、日本円にしてもドルにしても、世界の先進国のお金というのはほとんど国債を発行して生み出されている債務貨幣なんですよ。借金から生まれたお金なんです。日本円は現在1,500兆円ぐらい存在していますが、その99.6%が誰かの借金です。借金には金利が付くので、増やさなければいけません。増やすためにはまた他の誰かが借金する、というふうに、今のお金というのは雪だるま式に膨らませていかないと機能しないシステムになっています。
    それが今、暴走しているんです。だから環境破壊もしてしまうし、労働者を搾取することにもなっている。

湯川    次々と増やしていかないといけないから、必要もないモノを作ったりとか、そういうことが行われていると。それはお金が原因だということですか?

武井    そうです。企業が成長成長と言っている理由は、増やさないといけないお金だからなんですよ。

湯川    法定通貨がなくなったらそんなに増やさなくてよくなるんですかね?

武井    そうです。ビットコインもイーサリアムも借金から生まれたものではないので。

湯川    そうですね。

武井    勝手に誰かが作っちゃったんです。サトシ・ナカモトやヴィタリックが。

湯川    計算式でね。計算式でインフレにならないように、供給量が自然と上がっていくように制御している非常によくできたシステムですよね。考えた人は天才だなと思います。借金しなくても中央政府がいなくても、お金が回るのはすごいですね。


■ビットコインが法定通貨になった国

武井    いずれ日本銀行のような中央銀行もなくなります。

湯川    そうなんですね。でもお金ってやっぱり誰かが「これがお金ですよ」と言ってくれないと、不安じゃないですか?

武井    不安ですかね?

湯川    よくよく考えると変な話ですよね。「金(きん)をお金としましょう」と言っても、「金に何の価値があるの?」と。金箔はきれいだけど、金箔にあんな価値を付けるのは我々が頭の中で「金はあまり採れないから重要だ」と思い込んで価値を付けているだけではないかと。

武井    金なんて食べられないし、何の使用価値もありません。金本位制を作ったのはそもそも、その金鉱山を所有していた人たちです。

湯川    なるほどね。その後は国が金融をするようになって、国が「これは大丈夫だよ」と言うから我々は安心していますけど、途上国だったら国が「大丈夫ですよ」と言っても安心できませんよね。

武井    そうですね。それでエルサルバドルと中央アフリカ共和国では、ビットコインが法定通貨に指定してしまいました。

湯川    しっかり計算式で作られた破綻しない暗号通貨を利用したほうが安心ということですね。

武井    ドルよりもよほどビットコインのほうが安心だとエルサルバドルは言ったんです。

(第2回につづく)


2022年9月11日    Zen2.0 2022    鎌倉・建長寺にて
構成:中田亜希
撮影:編集部



第2回    ブロックチェーンで変わる世界

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Zen2.0
禅とマインドフルネスの国際カンファレンス2023
開催へ向けて

    ZEN・マインドフルネスと先端科学の国際カンファレンスZem2.0。
    9月2日(土)、3日(日)に会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンラインで開催。
    テクノロジーと古来の叡智のコラボレーションから、調和的な世界を創造します。

2023年    Zen2.0のテーマ

Be like Water    加速の時代に、水のごとく在る
〜Source, Flow, Alignment〜

    世界のあちこちに顕在化している分断や対立だけでなく、地球温暖化の問題や大手テック企業での大量解雇・AI技術の加速度的な進展など、時代のスピードは加速し、変化の大波が明らかに来ています。
    そのような環境下だからこそ、私たち一人ひとりがしっかり本来の自分・大切なコアの価値観(Source)に繋がり、そして水源から湧き出る泉が川となって流れるが如く、そこからのエネルギーで自然な流れ(Flow)が創り出され、そして、私たちのコミュニティ・社会・地球の中でそれぞれのパーパスに繋がったアクションに繋がり(Alignment)、広い海へと循環・浸透していく。今年のZen2.0ではその想いを「Be like Water    〜Source, Flow, Alignment〜」という言葉に込めました。
    禅語に「一滴潤乾坤(いってきけんこんをうるおす)」という言葉があります。一滴の水が大地を潤し、樹木草花を育み、緑に輝く地球を作りあげている大いなる循環。ひとしずくの水滴が、循環の水脈につながっているという事実は、世界がどう変化しようとも、古来から今も変わりません。私たち一人ひとりが、自分の思考や感情・身体との関係を深めることで、この「ひとしずくの力」に気づき、内面から湧き出る力と世界を繋げ、変化と加速の時代を水のように、自由自在に生きていく。今年のZen2.0では、この本質への気づきを深め、共に語り合える場をつくっていきます。

開催概要

    • 日程:2023年9月2日(土)・3日(日)
    • 参加方法:会場(北鎌倉    臨済宗建長寺)+オンライン(zoom)
    • 詳細・申込:https://www.zen20.jp/

登壇者の皆様

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    藤田 一照(曹洞宗僧侶)
    横田 南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
    ジョアン・ハリファックス(禅僧、医療人類学者(PhD))
    前野 隆司(慶應義塾大学)
    サティシュ・クマール(平和活動家、Schumacher College創始者)
    ももえ(Zen Eating 代表)
    三宅 陽一郎 (ゲームAI開発者、東京大学)
    荻野 淳也(MiLI代表)
    茂木 健一郎(脳科学者)
    伊藤 穰一(千葉工業大学)
    有本 奈緒美(ネイリスト、社会活動家、起業家、Plumeria Nail代表)
    鬼木 基行(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ(株)
    スティーブン・マーフィー重松(スタンフォード大学)
    和 真音(一般社団法人シンギング・リン協会代表理事)
    原田 友美(イエナプランスクール大日向小学校グループリーダー)
    工藤 煉山(尺八演奏家)
    小笠原 和葉(ボディーワーカー/臨床身体学研究者)
    SHIHO(モデル)
    宮崎 姿菜子(太極拳研究家/気功整体療法士)
    藤野 正寛 (NTT コミュニケーション科学基礎研究所)
    鎌田 東二(京都大学名誉教授)
    水野 みち(株式会社日本マンパワー)
    二木 あい(フリーダイバー・水族表現家)
    oba(ダンサー・モデル・庭師)
    (順不同・敬称略)

プログラムのご紹介

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プログラムの詳細は    https://www.zen20.jp/    を御覧ください。
    ※プログラムは変更になる可能性があります。

チケット情報

    チケットは、Zen2.0公式ホームページにて販売開始しております。お得な「早割」は8月19日までの販売期間となりますので、お見逃しなく!

<リアル参加チケット>
    通常:28,000円
    早割:23,000円(8月19日まで)
    学割:9,000円

<オンライン参加チケット>
    通常:12,000円
    早割:8,800円(8月19日まで)
    学割:4,400円

※いずれも2日間通しでの販売となります。
※チケット購入者は、後日動画でのアーカイブ配信をご覧いただけます。

    チケット購入はこちら→  https://www.zen20.jp/?utm_source=other&utm_medium=referral&utm_campaign=nl2

主催:一般社団法人Zen2.0について

    Zen2.0は、先端テクノロジーと禅の精神性の融合を目指し、2017年以来、北鎌倉・建長寺を舞台に毎年開催されている国際カンファレンスです。今年で7回目の開催となります。登壇者は、ヨーロッパ・北米・アジアなど世界各国から参加し、日本語と英語の同時通訳で参加できます。これまで、のべ登壇者数165名・のべ協賛企業70社・のべ参加者数3,000名・コミュニティ4,200の規模に拡大しています。
    ぜひ、Zen2.0のカンファレンスとコミュニティにご参加ください。

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