アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「自分には荷が重い仕事を上司から与えられたとき、それをどのように乗り越えればよいのか?」という質問にスマナサーラ長老が答えます。


[Q]

「自分のやるべきことをやる、宿題をやる」というご法話を聴いたのですが、世間で仕事をしている中で、上司や周りから自分の能力を超えた仕事や量を与えられます。そういった場合にどのようにこなせばいいですか?    自分の宿題として捉えた場合、荷が重く感じてしまうのですが、それはどのように乗り越えればいいでしょうか?

[A]

■自分ではなく他人を観ている

    自分にとって荷が重く感じられる場合は、自分のことは観ていないのです。相手のことを観ているのです。「こんな仕事を与えられた。成功させないと相手が私をバカにするだろう。バカにされてたまるか」などと思ってしまうと荷が重く感じるのです。「でもこんな仕事はできない」と感じる。その時は確実に相手のことを思っているのです。そうでないと荷が重いなどと感じないはずです。
    自分のことを観察すると、すごく簡単に能力がわかります。「これは私にはできません」と言えるのです。その時は荷が重く感じることはありません。しかし、素直に自分を観なくてはいけません。
    例えば、会社にドイツ語しかしゃべれない人が来て、上司から通訳を頼まれたとします。あなたは自分がドイツ語をしゃべれないことを良く知っていますから、その時は「私にはできません」とすぐ言えるでしょう。そのように自分自身を観ると気持ちが軽くなります。

■管理者に欠かせない資格(能力)

    処理不可能な量の仕事を与えられた、というケースを考えましょう。社会には欠かせない「管理する」という作業があります。個人個人は管理されているだけではなく、管理するという仕事も行っているのです。管理しないと社会が成り立たないと言い張り、わがまま好き勝手に他を管理しようとするのは、管理どころか社会の秩序を破壊する行為になります。明るく活発な社会を築きたいと思うならば、資格を持っている人々に管理を委託しないといけません。
    しかし、この理論は我々が生きる社会では正しく適用されていません。何かの条件で社長になっても、社長としての管理資格があるか否かは問われません。家柄・親戚・財産などの条件が揃ったら政治家になりますが、政治家として社会を管理する資格があるか否かは問われないのです。資格さえ揃っていれば医者・弁護士・教師・技師・会社員などなどの仕事に就けます。しかし、仕事と一緒に、管理する・管理されるという2つの条件が付いてくることを忘れているのです。管理の下手な教師は、いくら頭の良い知識人であっても、使えない仕事人です。いかなる仕事でも同じです。家庭の主婦であっても、管理する能力が欠かせないのです。

■管理者の管轄範囲

    管理能力の無い人は、他人に指令すれば充分だと思っています。上司が部下に、決まっている時間内にこなせないほどの仕事を与えるのは、自分自身が命令さえすれば良いと思っているからです。下手な管理者です。その結果、部下が精神的にストレスを感じたり、落ち込んだり、自己嫌悪に陥ったり、または上司に対して怒り憎しみを抱いたりすることになってしまいます。全体的に能率が下がってしまうのです。業績目標を達成することだけ考える管理者は、仕事をするのは人間であることを忘れています。人間をプログラムどおりに動くロボットだと思っているようです。しかし、生の人間には、2人分の仕事量をこなせる日も、1日分の仕事をこなすのがやっとの日も、失敗ばかりしてしまう日もあるのです。部下の能力が育つようにすること、能率が向上するようにすること、充実感をもって仕事をこなせるようにすること、精神的な問題を起こさないことなども管理職である上司の管轄です。

■定められた時間範囲で宿題をやる

    ここで私たちが上司の管理能力について考察しても何の意味もありません。ですから、できないぐらいの仕事を与えられたとしても、真面目に自分の宿題として、定められた時間範囲で与えられた仕事をやってください。それで「ここまでできました」と言えばいいでしょう。上司から「なぜこれだけしかできなかったのか?」と問われたら「この仕事量でこれぐらいのスピードですから結果はこうなります。この仕事量だったら2人でやった方が間に合うと思います」と提案してみたりする。そのようにリラックスして仕事をした方がいいと思います。


■出典    『それならブッダにきいてみよう:こころ編1』

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