玄侑宗久(僧侶・作家)


新型コロナウイルスの感染拡大によって、経験したことのない困難に直面した私たちは、これからどのように社会を築いていけばよいのか──。僧侶で作家の玄侑宗久師から話をうかがうために、玄侑師が住職を務める福島県三春町の福聚寺を訪ねた。


第4回    SDGs時代の日本の課題


編集部    コロナ禍以前はグローバルスタンダードみたいな動きがすごく大きかったのですが、パンデミック後はそこも大きく変わってきています。そのあたりについてや、私たちが向かうべき方向についてお聞かせください。


■GDP以外の繁栄をご利益に求める

玄侑    結局はグローバルスタンダードの行き過ぎというのでしょうか。以前から「グローバルスタンダードと言ったところで、結局、英語と先進国経済のためのものじゃないか」みたいな反発がものすごくあったところに、タイムリーに環境問題が発生したわけですね。グローバルに考えなくてはいけないのはむしろ環境問題であって、経済はその後でいいわけです。でもまあ、共に考えて共に行動するためには経済も連携しなくてはいけない。これはもう、今や世界の趨勢でしょうね。しかし、その方向に進む際の智恵というのは、私は仏教がずいぶん参考になると考えています。
    SDGsには「5つのP」があります。People(人間)、Prosperity(繁栄)、Planet(地球)、Peace(平和)、Partnership(パートナーシップ)という5つのPを原則としている、と。そして問題はProsperity(繁栄)で、GDP以外の指標を我々は考えなくてはいけないということを添え書きしてあるのです。確かにそうだと思います。GDPというのは結局どこかから奪ってきた戦果の話だろうと。どこかが「繁栄しています」というのは、どこかが泣いているということですから。
    そこで、あらためて考えるのがやっぱり仏教的なご利益ですね。ご利益はいつの間にか利益と読まれてProsperityの訳に使われたわけですが、利益(りえき)と利益(りやく)は全然違います。