川本佳苗(仏教研究者、日本学術振興会特別研究員PD)
…………「あの伝説の連載がかえってきた! おかえり、スナ子。みんな待ってたよ。」!
ということで、旧連載から5年の歳月を隔て、艱難辛苦を乗り越えての「ぶぶ漬けどうどすか?」連載再開です。題して、「はよぉおあがりやす編」。
川本佳苗先生はミャンマーの仏教大学ITBMUで学び、タイのマハーチュラロンコン大学の大学院で研究し、帰国して日本での研究活動を本格化、現在は日本学術振興会特別研究員PD(東京大学東洋文化研究所)・ベルン大学宗教科学研究所博士研究員という肩書で、活躍されています。
折々のテーマでご寄稿いただく不定期連載です。随時読者のみなさんおからの質問にも答えていただきますので。どうぞ奮ってご質問をお寄せください。
オンラインサンガにログインしている方は記事の末尾にあるメッセージ欄にお書込みください。それ以外の方は、メールアドレス「info@samgha-shinsha.jp」宛に、件名に必ず「ぶぶ漬け質問」と書いてお寄せください。
皆様の質問をお待ちしております!
また、旧連載は全編webサンガジャパンに再掲載していますので、記事末のリンクから辿ってお読み下い。
第1回「なぜ不倫は仏教的にNGなの?」
みなさまーただいまどすえ、スナンダどすえ! BUBUDUKE THE RETURRRRRRNどすえ! 今年はがんばって連載をつづけますので、楽しんでくださいね。
5年の間にいろんなことがありました。現在、スナ子は生まれ育った京都をはなれて、東京で働き横浜で暮らしています。けど、変わらず京女スピリット(と関西ノリ)はつらぬいていきますえ。
2024年9月にとつじょ来日されたディーパンカラサヤレーの都内法話会にて通訳したスナ子
復帰第一弾は、のっけから質問へのお答え編です。実はこのご質問、旧連載中の2020年9月にいただいていたのに、連載が休止してしまってお答えできずにいました。ご質問いただいたマルコさん、本当にもうしわけありませんでした!
なんで休止になったのか、もはや思い出せないのですが(編集部注:筆者多忙で原稿が届かない間に、旧サンガ社が潰れたせいです……(遠い目)。ごめんなさい。m(__)m)、わたしはマルコさんの質問に答えられていなかったことがずっと心残りでした。でも、昨年からぼちぼち編集担当K島さん(仮名)と「ぶぶ漬け」再開の話が持ちあがってですね↓
K島:いいっすねー、復帰第一弾はなに書きますー?
スナ:最後にもらった質問のこってるやん?あれにきちんと答えたいねん。
K島:そんなんあったすかねー?
スナ:あったあった。メールボックス探してといてぇや。
(スナ子の再現ドラマではK島さんのキャラが若干チャラいですが……。)
K島さんと作戦会議したミャンマー人が握るお寿司屋さん「令和」にて」
そんなわけでマルコさんの質問にいってみましょー。
こんにちは。
いつも連載、楽しく拝読しております。
スナンダさんの説明は、日常に即してお話ししてくださるので、とてもわかりやすく、すとんと腑に落ちます。
今日はこれまでずっと疑問に思っていたことをお尋ねしたくメールしてみました。
仏教では五戒を守ることを大切にしていますよね。
その中で、不邪婬戒(=不倫をしない)がありますが、
これは何故なのでしょうか?
私は、不倫をすると、嘘をつくことになる、また誰かを傷つけることになる、だからしてはいけないという風に思っていたですが、例えば、イスラム教の国など、もともと一夫多妻制だったり、チベットなどでは一妻多夫制などの地域もあります。
もし不邪婬を特定のパートナー以外の人と性的な関係を持つことと定義した場合、罪悪感のない人(=悪業を作っている意思がない人)は実際に悪いカルマは作られないのでしょうか?
いいですねぇ、こういう質問。私はテーラワーダの比丘でも尼僧(サヤレー)でもないし、日本仏教の職業的僧侶でもない一人の在家女性でしかないので、なんのしばりもなく率直に自分の意見を答えていきます。
さて、ご質問は三つに分けられますね。
まず、(1)「五戒のなかの不邪淫(不倫)はなぜいけないことなのか?」
仏教の五戒は大体こんなんですよね↓
1. 不殺生戒:生き物を殺さないように心がける
2. 不偸盗戒:自分に与えられていないものは取らないように心がける
3. 不邪淫戒:不倫・浮気をしないよう心がける
4. 不妄語戒:嘘をつかないように心がける
5. 不飲酒戒:酔わせるものお酒・ドラッグなど)を飲まないよう心がける
五戒は、かつては四戒だったところに不飲酒戒が追加されたといわれています。だから、最初の四戒こそ大事なんですよ。やってはいけない四つの行いです。
四つの行いは、あちこちの経典で「不浄な行い」がとして解説されています。不浄な行為には身体による三つと言葉による一つがあって、これが四戒の行いに該当します。つまり、邪淫をふくむ四つの行いが「なぜいけないことなのか」というと、「不浄だから」です。仏教徒たる者、清らかでいないとアカンのです。
邪淫(kāmesu-micchācāra)は「よくない性行為」という意味ですが、では、どのような相手とセックスエッチするのがよくないのでしょうか? 経典でのブッダの説明は男性に向けて行為の相手を女性と前提して話されていますが、性別を入れ替えたり同性同士であったりしても同じように考えていいでしょう。
まず㈰親や親族などの保護下にある者、つまり、まだ育児養育される義務がある未成年に手ぇ出したらアカンよ、と。日本でも淫行条例にひっかかってしまいますね。つぎは㈪ダンマに守られている者、これは出家者ですね。日本のお坊さんはどうなるんでsh(以下自粛)。それから㈫既婚者と㈬受刑者もダメです。獄中で受刑者同士もやっぱりアカンやろね……。最後に㈭未婚であっても婚約者のいる人です。これは現代でいうなら事実婚やパートナーのいる人も含まれるんじゃないでしょうか。現代でも、事実婚や婚約中の状態で浮気したら不貞行為として民事訴訟されてしまいますね。
いわゆる「不倫」にあたる対象者は、㈫既婚者と㈭婚約者いわばパートナーのいる人ですね。㈰㈪㈭も、たとえ相手から「あなたが好き?」と言われても(合意があっても)ダメです。以上の五種類の相手のだれとセックスしても「不浄な行い」になってしまいます。
つぎは(2)「不倫が悪いことの理由は、嘘をつく、または誰かを傷つけるからか?」
㈰の質問の答えと重なるのですが、不倫が悪いことの直接的な理由は「自分を汚す不浄な行いだから」ですね。たとえ嘘をつかずに大っぴらに行ったとしても、配偶者が傷つかなかったとしても、です。
そうだ、ブッダがヴァッジ族に「一族繁栄のために七つの道義を教えたげるよ」と話し始める経典があるんですが、その一つが結婚観なんです。「女性を彼女の一族(家族)から無理やり連れ去って同居(結婚)させないで」とのことですが、昔のインドでは、結婚相手にしたい女性を無理やり拉致するなんてことが横行してたんですかね……。
まあ、古代ではインドだけでなく全世界で女性は立場が低かったですし、家族(世帯主である父親)あるいは夫の所有物という考え方だったでしょ。財産みたいなもんです。だから「無理やり」でない「合意」のある結婚っていうと、妻と夫の個人間よりも、家と家との合意という意味の方が強かったと思います。だからブッダも「女性の家族から了承を得ないとアカンで」と戒めているわけです。
そして当時の考え方だと婚姻関係=セックスが公的に許される関係なので、親が許していないのにその家の女性を連れ去って強制的に結婚するなんて、ほぼレイプと同じですやん……。無理矢理はぜーーったいアカンよ!スナ子が怒るよ!!
もう一つ、適切な婚姻関係をテーマにブッダがバラモンをディスりまくるブラックユーモアな経典があるんですが、要約するとこんなかんじ↓:
「犬ですらオスは犬のメス以外とはヤらないよね。なのに、いまやバラモンはバラモン以外の女性ともヤってるよね(当時のインドは異なるカースト間の結婚はダメなのに)。犬ですら繁殖期のときだけ交尾するのに、いまやバラモンは時期に見境なく女性とヤってるよね。犬ですらオス犬はメス犬を売買したりしないで好き合ってペアになるのに、バラモンはバラモンの女性を売買してるよねー。」
ブッダ、めっちゃ煽るやん。話しながらキャッキャ草はやしてそう。
まあ、一連のブッダの言葉から浮かびあがると、邪淫にふくまれる不倫は、「仏教的に適切な婚姻関係またはパートナーシップ」でないことだと思います。じゃあ何が適切な関係かというと、現代的に言うなら、しかるべき時期(未成年じゃない年齢)の相手と、お互い好き合って(かつ家族間の合意もあって)、はじめて可能になるのではないでしょうか。
最後に(3)「邪淫しているという自覚がなければ悪業はつくられないのか?」
邪淫は「不浄な行い」なので、もちろん悪いカルマです。でも、邪淫しているという自覚がなかったとしても、セックスしたいと望んだだけでも実際の行為に及んでも心に性欲(lobha)が発生するので、もれなく悪業がついてきます。
それとは別に、これは仏教的にどう解釈したらいいのか、わたしにも分からないんですけど……邪淫の悪果が周りの人に飛び移ってしまうようなケースがありませんか? あの歌舞伎役者さんとか、某タレントさんとかゴニョゴニョ……。
本人は罪悪感や自覚がないので他人からの恨みを跳ね返すパワーがあるんですが、その怨念が本人の身近な人に降りかかるというような作用はある気がします。それでも配偶者が不幸な亡くなり方をしたら、本人も大きなダメージを被りますので、悪果を受けたと言えなくもないんですが、なら配偶者さんは完全な巻きこみ事故やん、って考えちゃいますよね。いやでも、配偶者さんたちのもっているカルマもからみ合っての結果なのかもしれんし……。うーん。
カルマのシステムがどう働いているのか、わたしには分かりません(ブッダも「あんま考えすぎんなよ」とおっしゃっていますしね)。でも、不倫をした人が今生でまったく悪果を被らなかったとしても、来世でどう結実するか分かりませんよ。カルマは消せない借金みたいなものですからね。
なので「不倫、ダメぜったい」。
あ、ブッダの法話って全て男性が女性と邪淫するなって例ばっかりだったんですけど、一つありましたよ、女性主体のお話が。
ジャータカの一つで、そのとき菩薩はある国の宗教者という話でした。その国の王妃が王さまに「ぜったいわたし以外の女を見ちゃイヤ! 浮気しないで!」っていう束縛女。なのに、王さまが戦争に出向いた先から、王妃が心配するだろうと近況報告しに使者を一人ずつ送るところ、使者全員と浮気するというびっくりロイヤル・ビッチ。
その数、戦場までの片道で32人遣わしているから往復で64人にのぼりました。いよいよ王さまが国に帰還する前に、超絶イケメン菩薩を見かけた王妃はさっそく誘惑しようとするのですが、菩薩は応じません。そこで怒った王妃が、王さまが帰還するや「あいつに乱暴された」と訴えるのですが……。
まあでも、このジャータカの主題は「邪淫はいけない」というより「邪淫は嘘をついて隠さないといけない行為なので、真実のみを語る賢者であれ」という教訓なので、奇しくも2番目の質問へのお答えになりますね!?
けっきょく邪淫ってお天道様の下を正々堂々と歩ける行いじゃないんですよ。
結論、「不倫、ダメぜったい」。
以上です。
マルコさん、5年間お待たせしたご質問への回答、ご満足いただけたでしょうか? もしそうなら嬉しいです。
第11回 質問コーナー改め「スナンダに聞いとくれやす~」──お題は「仏教とベジタリアン生活(菜食主義)」
川本佳苗先生があなたの質問に答えます。オンラインサンガ会員になってどしどしメッセージ欄に書き込んでくださいね。
■川本先生よりご案内
川本先生はこの4月より、元東京大学教授の蓑輪顕量先生がリーダーを務められる仏教瞑想アプリの開発チームに参加しておられます。
「この研究は、内閣府ムーンショット型研究開発事業の目標9にあたる目標9「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」の一環です。」とのことです。
ご関心のある方はご参加を検討されてはいかがでしょうか。
「これまでの瞑想経験は必要ではありません。むしろあんまり瞑想したことがないくらいで大歓迎」とのことです。
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●内閣府ムーンショットのページ
●ムーンショット目標9「東洋の人間観と脳情報学で実現する安らぎと慈しみの境地」の公式サイト
■概要
【日時】 令和7年(2025)6月9日(月曜日)~6月15日(日曜日)6泊7日
【場所】 千葉県鴨川市内浦1891-1 「さとうみ」学校 https://www.satoumi.life/
【参加条件】 18歳以上の方 スマホをお持ちの方 金属アレルギーのない方
【募集人数】 50名
【申し込み締め切り】 5月6日(火)
【参加費】 無料(交通費は千葉県内の方は公共交通機関の実費を支払いますが、
それ以外の地域の方は東京駅から安房小湊までの電車(往復特急利用)料金を支払います。なお、各自で一度お支払いいただいた後に、後日、宿泊費・食費・交通
費をお振り込みいたします。 )
詳しくは:https://sites.google.com/view/ms9-buddhism-design
■ポスター