第4回 慈しみの瞑想を深める
ミャンマーの瞑想指導者ディーパンカラ・サヤレーの、2008年1月6日および2013年1月2日の日本でのリトリートでの法話の中から、「慈しみの瞑想」についてのお話をお届けします。
■「慈しみの瞑想」の実践方法
●慈悲の瞑想で禅定に入るには
質問──リトリートで実際にアーナーパーナ(呼吸瞑想)をやりましたが、あまり上手くいきません。普段は慈しみの瞑想を実践していて、日常生活では怒りなどが起きても慈しみの瞑想で消しています。今回のリトリートの途中で慈しみの瞑想に切り替えてみたら比較的体が落ち着いて、体の痛みもアーナーパーナのときよりも感じなくなりました。私は慈しみの瞑想で禅定に入るのを目指そうと思いますが、どのようにしたらよいでしょうか。慈しみの瞑想ですと「慈悲喜捨」の4つの文言ですが、それを順番に唱えていくと、散乱するというか集中出来ないように思います。
サヤレー──「慈しみの瞑想」については528種類あり、それを詳しく説明すると時間が足りないので、大雑把にという感じになりますけれどもお話していきます。内房総の岩井海岸の夕景。海岸で歩く瞑想をするリトリート参加者たち
・自分に対する4つの慈しみ
まず「慈しみの瞑想」は、自分について唱えます。
顔から体全体を感じて、「私が危険から自由でありますように」と瞑想します。
それを唱えて心が段々静かになって平和になるまで瞑想します。
ただそれによって禅定(ジャーナjhāna)を得ることが出来るわけではありません。
段々心が落ち着いてきたら次は、「私の心が苦しみから自由でありますように」と瞑想します。
3番目は、「私の体が苦しみから自由でありますように」と瞑想します。
4番目は、「私が健康で幸福でありますように」と瞑想します。
そういう風に瞑想していると、段々心と体が落ち着いてきて、体の痛みも感じなくなって、とても幸福な感じになってきます。
・自分以外の4つ対象への慈しみ
最初に自分について行うわけですが、それから4種類の対象があります。
まず尊敬する人を対象に慈しみの瞑想をします。これも同じようにやります。尊敬する人ですから、学校の先生とか自分の親しい友達とかを目の前に現れているようにイメージして、しっかりと目の前にいるような感じになる事がまず大事です。
慈しみの瞑想のときには、その慈しみを送る対象がまずはっきりしていないといけません。はっきりイメージする事が第一に必要となります。
そういう風にイメージがしっかり出来てきたら、心ですね。心臓のところから送るような感じで、その対象に向かって、「その人が危険から自由でありますように」と慈しみを送ります。次は、対象に向かって、「心の苦しみがありませんように」、「体の苦しみがありませんように」、「健康で幸福でありますように」という風に慈しみを送ります。
2番目には尊敬する人、3番目には中立的な、ニュートラルな人。4番目は敵ですね。
敵というか仇。皆さんそういう敵みたいな人がいますか? いなければ非常に良いことです。敵がいなければ心はとても平和です。ですからブッダが私たちに薦めたのは、すべてに平等に慈しみの瞑想をするということで、特に誰が好き、誰が嫌いという事ではなく、平等にする事を薦めました。
ですから中立的な人に対して、イメージして、その人にさきほど言いました4つの慈しみを送って、次に敵対する人に対してもイメージして4つの種類の慈しみを送るようにします。その4つの対象について慈しみの瞑想が終わったら、次は528種類の瞑想が待っています。家に帰ったら実際にやってみて下さい。
・禅定力で対象を明確にイメージする
「慈しみの瞑想」というのはある程度、禅定の力がついていないとなかなか難しいのですが、それで心が落ち着くのであればやっても良いでしょう。アーナーパーナで禅定力をつけてからでないと、なかなか本格的にやるには満足しないでしょう。
アーナーパーナ・サティをやって、第4禅定まで行っておけば、その対象のイメージをつくるときに、イメージがしっかり安定するのですが、その禅定がない場合には対象をイメージしてもすぐに消えてしまうか、なくなってしまいます。
過去のカルマがどうであったかというのがよくわからないのですが、過去において「慈しみの瞑想」をよくやっていた人ならば、仮に禅定(ジャーナ)を得ていなくても慈しみの力があるのでやってみると良いでしょう。それをやって禅定を得られなくてもそれはそれで良いので、その対象に対して慈しみを送って自分の心が非常に静まって落ち着いてくるという事があれば結構です。
●対象をしっかりとイメージする練習
質問──写真を見ながら目を開けて対象をはっきりさせるのはどうでしょうか。
サヤレー──写真を見ても結構ですけれども、そこに本当にその人が居る様に、そういう風にイメージしてということですね。
質問──実際にその人のイメージを固定するには、明るいところより暗いところでやったほうがイメージを作りやすいと思いますがいかがでしょうか。
サヤレー──暗くても明るくてもそれはどちらでも結構です。イメージがしっかりして、その対象にしっかり慈しみの心を送ることが出来ればそれで結構です。リトリートで法話するディーパンカラ・サヤレー。
■528種類の慈しみの瞑想
●慈しみの送り方
528種類の対象の説明を手短にします。3つのグループがあります。1つ1つのまとまったグループの人々に対して送るという事です。
最初は「生きとし生けるもの、すべての生きもの」に対して慈しみ(メッタmetta)を送るようにしますが、そのときに皆さんにニミッタ(相nimitta)【*1】の光がある場合は、ニミッタをずっと送るようにします。なくてもそれはそれでも結構ですから、「生きとし生けるもの」に対して慈しみをずっと送るようにします。すべての生き物を対象にしてイメージして送るわけですけれども、それが少なくても多くても対象が見えればそれでいいので、その対象に慈しみを送るようにします。
慈しみ(メッタmetta)の持つ力というのは、人によってみんな違います。例えばブッダの持つメッタの力と、そうでない阿羅漢たちの持つメッタの力とは異なっています。
ブッダの場合は、すべての生きとし生けるものに慈しみを送る場合に、彼が今まで見る事の出来たすべての生き物に慈しみを送る事が出来ました。でも普通の人にとっては、ブッダの様に今まで見る事の出来たすべての生き物というわけにはいかなくて、非常に限られたものになってしまいます。どちらにしてもすべての生き物に慈しみを送るようにします。
先程言いました、「危険から自由でありますように」、「心の苦しみがありませんように」、「体の苦しみがありませんように」、「健康で幸福でありますように」という4種類の慈しみを送るようにします。
もし禅定を得ていたら、1つ1つについて第三禅定に至るまで慈しみの瞑想を送ります。
●1番目のグループ
・すべての生き物に4つの慈しみを送る
最初は、サッベーサッタ(sabbe satta)で「すべての生きとし生けるもの」です。
2番目がサッベーパーナ(sabbe pāṇa)で「すべての呼吸するもの」、人間も息するし動物も呼吸するしデーヴァも呼吸しています。皆同じですね。
3番目はすべての生物。
4番目はすべての人間。
5番目はすべての生命あるもの。
すべての5つのそれぞれに対して4種類の慈しみを送ります。【*2】
●2番目のグループ
2番目のグループには7種類の対象があります。
・すべての女性に慈しみを送る
まず第一にすべての女性です。
すべての女性というのをイメージして、数は多くても少なくても良いですがイメージして、その女性たちに対して慈しみを送ります。
・すべての男性に慈しみを送る
2番目にはすべての男性です。
・悟りを開いた人たちに慈しみを送る
3番目は聖者・悟りを開いた人たちです。
悟りを開いた人というのをイメージするのは難しいと言えば難しいのですけれども、それを決意してイメージするようにします。そして、そういう人たちに対して慈しみを送ります。
心が天上界に集中する事が出来れば、天上界には多くの聖者であるデーワたちが居ます。禅定を得ていれば、ニミッタをそこに焦点を当てて見る事が出来ます。
・凡夫たちに慈しみを送る
もう1つは、聖者ではない人たち、凡夫です。
・天人たちに慈しみを送る
もう1つは、デーワ、天上界に居る天人たちです。
・人間に慈しみを送る
それから6番目は人間です。
・動物、阿修羅、餓鬼に慈しみを送る
7番目は動物、阿修羅、餓鬼、それから地獄。これが1つのまとまりです。
阿修羅とか動物とか、送りたい者をイメージします。そして、そのイメージに対して、慈しみを送ります。
第4禅定を得ていればイメージするときにこういう対象に送りたいと決意すればパッと浮かんできます。
今、7つの種類の対象について話したのですが、先程言いました4種類の慈しみを対象に送ります。
最初に第1番目のグループについては5つの対象がありました。2番目が7つの対象です。5と7で12種類の対象です。それぞれに対して「危険から自由でありますように」、「心の苦しみがありませんように」、「体の苦しみがありませんように」、「健康で幸福でありますように」という4種類の慈しみを送ります。
12×4=48。全部で48になります。
●3番目のグループ
・各方角に向かって慈しみを送る
また第3番目のグループがあります。これはそんなに難しくはないです。今度は方角です。
・東に向かって48の慈しみを送る
まず東の方角に向かってです。ここまでに48種類の慈しみがありました。その48の慈しみを東のすべてのものに向かって送るようにします。
1番目のグループと2番目のグループを合わせて12種類の対象があって、それぞれに「危険から自由でありますように」、「心の苦しみがありませんように」、「体の苦しみがありませんように」、「健康で幸福でありますように」という4つの慈しみを送って48です。
東の方角に向かって48の慈しみを送ります。
・全部で8つの方角に向かって48の慈しみを送る
東の方角に向かって48の慈しみという風を送ったように、同じように他の方角にも送ります。東、西、南、北、東北、東南、西北、西南、これで8方向です。
・上と下に向かって48の慈しみを送る
さらに上、下です。
・合計で10の方向に向かって48の慈しみを送る
8つの方角と上下の2つで10方向です。
3番目のグループとして、10の方向に向かって48の慈しみを送って480種類の慈しみ瞑想です。
・528種類の慈しみの瞑想
3番目のグループの480の慈しみの瞑想に1番目と2番目を合わせた基本となる48の慈しみの瞑想を足して528種類の慈しみの瞑想となります。 ●日々の慈しみの瞑想
家に帰ったら以上のように瞑想をしてみて下さい。それはたいへん良い行いです。
皆さんの慈しみがはるか全世界に、全宇宙に広がっていきます。
ひとつ、男性女性に向けて慈しみを送るとき、初心者は最初のうちは同性についてだけ行って下さい。それは最初だけで、平等にすべての人に送れるようになってきたら異性に向けても慈しみを送ってください。
本日はありがとうございました。
サードゥ(善哉) サードゥ(善哉) サードゥ(善哉)
*1──ニミッタ(相nimitta)は禅定に入る瞑想において、集中度合の目安とされる体験。多くは光が現れるとして表現されている。
*2──この5つは名称は異なるものの、「一切の衆生」を指す。
翻訳・構成:はらみつ法友会
写真:編集部第3回 餓鬼界、天界、一切の生命