アルボムッレ・スマナサーラ

【スマナサーラ長老に聞いてみよう!】 

    皆さんからのさまざまな質問に、初期仏教のアルボムッレ・スマナサーラ長老がブッダの智慧で答えていくコーナーです。日々の生活にブッダの智慧を取り入れていきましょう。今日は「瞑想を現実逃避の手段では?」という悩みにスマナサーラ長老が答えます。

[Q]

    世の中や人間社会は苦しみに満ちていて、それを諦めるしか仕方がないということ。また、諦めるための方法として瞑想があるのかと理解しています。ただ自分でも何か違うような気もしています。この理解は合っているでしょうか?
    例えば歩く瞑想をしている場合、右足を「上げます、運びます、下ろします」と実況中継しているとそれしか考えられないので、世の中の人間社会に起こる変化も認識できなくなって、そういう意味で瞑想すれば苦しみが無くなるのかと理解しています。しかし、それでは根本的な解決ではなく、単に現実逃避しているのではないかとも思います。
 
[A]

■思考の矛盾に気づくことは大事

    ご自身でも自分の理解(思考)が正しくないと思っているのですから、そうでしょう。あなたは現実逃避しているのではないかと言いましたが、正にその通りです。あなたの頭の中で、瞑想を現実逃避の手段として考えているだけです。だから、自分自身で「この理解は間違っているのでは?」という疑問(矛盾)が現れてきたのです。そこまではOKです。

《はあ、それで良いのですか。》

    いいえ、今あなたは勘違いしました。あなたは自分自身で、瞑想に対する理解を間違えていると知っている。そこまでは問題ではありませんと言っただけです。理解について正しいと言ったわけではありませんよ。

■一切の存在が苦によって成り立つ

    あなたの課題は、「自分の理解(思考)をどのように正せば良いのか?」ということなのです。あなたの第一の間違いは、「人間社会は苦しみに満ちている」という部分です。そうではなく、輪廻する全ての生命たるものは苦しみ(dukkha)が無ければ生命として成り立たないのです。存在とは苦しみなのです。神々や餓鬼や地獄の生命も同じです。これは人間に限ったことではありません。例えば日本で信仰されている不動明王や観音菩薩や大日如来という得体の知れないものであっても、もし存在するのであれば苦しんでいることになります。存在とは、苦しみで成り立っているのです。

■「無常」に対する評価としての「苦」

    第二の間違いは、無常ということです。瞬間、瞬間、変化している無常に対して、それを「苦」と言いたければそう言えます。ただ無常は無常であると理解することもできます。微妙かもしれませんが、個人の理解の差があることを認めます。「無常であるから苦ですね」と言ったら、「まあ、そうですね」と言える。あるいは「ただ無常だ」と言ったら、それもその通りです。「苦」というのは、無常についての評価なのです。無常を評価しなければ、苦でも楽でもありません。

《苦から一時的に逃れる方法が瞑想ではないのですか?》

■瞑想とは現実逃避ではなく、ありありと現実を直視すること

    瞑想とは苦から一時的に逃れる方法ではありません。その前に、あなたは答えを見つけてください。一時的に逃げられたとしても、結局は苦でしょう。それに一時的なものでしょう。それでは意味がありません。そうすると一時的にも逃げたことにすらなっていません。無常から逃げることはできないのです。では、答えを言います。
    瞬間、瞬間、変化生滅していく、何の実体も無い幻覚のような流れ(現象)に、なぜ苦だと言うのかというと、それは私が現象に対して執着しているからなのです。無常に逆らっているからです。執着することは成り立たないことなのです。無常なので何も止まらない。例えば、年を取ると苦しいと言っても、年を取ることは無常ですから当たり前です。なのになぜ年を取ることが苦しいのかと言えば、「年を取りたくない」「若いままでいたい」という執着があるからなのです。若いままでいたくてもそれはあり得ないことです。ずっと二十歳のままでいるということは不可能です。

■執着とはあり得ない期待、それを捨てること

    ということで、私たちの執着というのは何であろうとも、あり得ない・おかしなことなのです。仏教では「執着を捨てるべき」だと教えています。ですから、瞑想は執着を捨てるためにするということが正しい理解なのです。執着というのは、瞑想(自己観察)しなければ捨てることはできません。執着しないことは、脱出行為であって逃げることではありません。逃げるのは腰抜けの人です。執着(束縛)という檻を破って脱出する人は真の者なのです。


■出典     『それならブッダにきいてみよう:さとり編2』 

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