松本紹圭(僧侶)
熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター当事者研究分野准教授)
「未来の住職塾」塾長でもあり、現在「産業僧」事業に取り組む松本紹圭氏がホストを務め、さまざまな分野における若きリーダーと対談し、伝統宗教を補完するような新しい精神性や価値観を発見してく「Post-religion対談」。今回は松本紹圭氏のたっての希望で実現した、東京大学准教授の熊谷晋一郎先生との初対談をお届けします。
第5話 「仲間」をキーワードに道徳を分類する
■道徳とは「仲間らしくする」ということ
松本 東大で道徳感情数理工学をご専門とされている鄭雄一(てい・ゆういち)先生が、いかにしてAIに善悪を教えるか、道徳をインストールするかという研究をされています。
世界にはローカルな掟からユニバーサルなものまであらゆる道徳があるけれども、AIに入れるものはユニバーサルでならなければいけない。それで鄭先生は世界中の道徳を紐解いて分類していかれました。たとえば「人を殺してはいけない」というのはユニバーサルな共通の掟である、と。しかしその道徳をAIに入れると、AIは混乱するのだそうです。「じゃあ死刑はどうなんだ」、あるいは「戦争のときはむしろたくさん殺した人がヒーローになるけれどもどう捉えればいいのか」と。
それで鄭先生は「道徳とは何か」をとことん突き詰めていかれて、「仲間らしくせよ」という結論に至りました。「人を殺してはいけない」というのはちょっと不正確で、「仲間を殺してはいけない」ということになるのだと。死刑になるのは仲間に危害を加えたからだし、戦争で向かっていくのも相手が仲間ではないから、ということになります。
松本紹圭師
■道徳を分類する
松本 さらに鄭先生は「仲間の範囲」に着目して、道徳を「道徳次元1」から「道徳次元4」までの4種類に分類されました。