チャディ・メン・タン (SIY創設者・著者・社会活動家)

宗隆フォラル(禅僧)

〔ナビゲーター〕
木蔵(ぼくら)シャフェ君子
荻野淳也

第3回    苦しみの世界から喜びの世界へ


■苦しみを喜びに変えるプラクティス

木蔵    素晴らしいお話をありがとうございました。お二人はどん底まで苦しみを経験されて、そこから喜び、叡智、思いやりに至りましたけれども、私たちの多くは苦しみを受けて心がくじけてしまったり、中には命を絶ってしまう方もいます。このことについてどのようにお考えですか?

メン    苦しみと向き合うというのはエクササイズみたいなものです。筋肉をつけたいと思ったら、バーベルで筋トレをしますよね。そのときに使うバーベルは軽すぎても重すぎてもいけません。一番いいのは自分にとってちょうどいい負荷がかかるバーベルを使うことです。

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    心の問題も同じです。ちょっと難しいけれども難しすぎないレベルでやることです。たとえば椅子に座って瞑想するだけでもたくさんの痛みや苦しみがあります。でもそこからほんの少しでも喜びを感じられたら、それが自分にとってのちょうどよいレベルだということです。そこをクリアーしたらその痛みをもう少し増やしてみてください。たとえばもっと長い時間座ってみるとかですね。そうすると、より許容量が上がっていきます。でももし自分の許容範囲を超えてしまったら、やりすぎということですから、しばらく瞑想から離れてみてもいいと思います。
    そういうふうに皆さんのできる範囲で、できることをやってください。何か苦しいことが起きたときには、なるべくできる限りのことをする。そして、なるべく喜びを感じながら、でも許容範囲を超えない程度にやってみる。そのようにして取り組み続ければ、どんどん苦しみに対する許容力が上がっていくことでしょう。


■苦しみには終わりがある

宗隆    皆さんに忘れてほしくないのは、すべての苦しみには終わりがあるということです。苦しみに耐えられなくなるのは「この苦しみには終わりがないのではないか」と疑問を持ち始めたときです。たとえ重い苦しみでも出口があると知っていれば乗り越えられます。ですから、「いつかこの苦しみから出られるのだ」という信念を持ってほしいのです。
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「苦しみを解決していくことは楽しいのだ」ということも忘れてはいけません。苦しみを楽しむなんて、そんなことできないと思われるかもしれませんが、でも実際は楽しいんですよ。苦しみを解決しようとする努力の中に喜びや楽しさがあるのです。最初は大変でも、しばらくすると心も体も気持ち良くなってきます。運動と同じですね。最初は苦しいけれども、何度か苦しみを体験した後には心地よさを感じられるようになるのです。
    するとだんだん苦しみ自体が楽しくなってきます。苦しみは克服できるのだとわかっているからです。
    ですから私は地球の苦しみに責任を持つことが楽しいのです。地球にはたくさんの苦しみがありますよね。その苦しみを引き受けて解決していくことが今は楽しみになっています。
    苦しみを避けることは、苦しみの解決を避けることです。苦しみに直面することこそが苦しみの解決につながります。苦しみから目を背けても苦しみは消えません。苦しみが楽しみになれば希望が生まれます。それは私たちの人生を賭けた冒険です。


■新しい力を生み出すために

──すべての生き物は殺し合う存在です。中でも人類はもっとも多くの命を殺す存在だと思いますが、この現実をどうとらえればよいのでしょうか。

宗隆    素晴らしい質問をありがとうございます。いま地球上ではさまざまな危機が起きています。その原因は私たちの苦しみの心、貪欲な心、憎悪、無知の心です。こういった心を捨てなさいというのが仏教の教えです。代わりに喜びの心、叡智の心、思いやりの心で行動しましょうと。
    憎しみや貪欲を捨て、喜びや叡智の心を持つこと。そしてそういう心をベースにして素晴らしい組織やテクノロジーを生み出していくこと。このように喜び、叡智、思いやりの心を個人から世界へ広げていくことがもっとも大切です。
    それによって他の生きとし生けるものとも調和して生きることができ、新しい力も生まれてくるのです。


■他者に感謝される生き方を目指す

荻野    日々の仕事や家庭生活に、喜び・叡智・思いやりという3つの要素を生かしていくためのコツはありますか?    あるいは日頃お二人が実践されていることを教えてください。

宗隆    大切なのは2つの実践です。
    1つは内面の実践です。たとえば瞑想などで、自分の精神的なトレーニングをすること。
    そして、もう一つは、家族や友達といった他者に対する振る舞い方の実践です。
    原田老師が言っていました。まわりの人々があなたの命に対してどれくらい感謝しているのかによって、自分の行いを測ることができると。自分の行動は他者に喜びを与えているのか、自分の行為は他者に感謝されているのかをよく考えてみるのが大事です。
    それを実践することで、生きとし生けるものが大きな家族のようにつながっていくことでしょう。それこそが今の世界を救って、世界をよりよい場所にしていくための鍵となるでしょう。他者を傷つけたりとか、他者に害を与えるのではなく、より友好的な形になることを目指す。それによって互いに成長していくことができると思います。
    私は僧院の中でそれを実践していますが、皆さんの場合は家族や友達、職場の人間関係の中で実践してみてください。
    難しいのはその実践をどうやって別のグループにもつなげていくかです。すべての人々が友好的にコラボレーションしていくことによって、世界はよりよい方向へと変わっていきます。


■一番大切なのは何もない喜びを感じられること

メン    最後に私から3種類の喜びの話をしたいと思います。1つ目の喜びは日常のありとあらゆる行為の中にある喜びを見つけることです。私はプログラミングが好きですけども、コンピューターの前に座っているときには、自分にとって、いかにこれが喜びであるかを一つひとつの作業の中で感じています。もちろんそれだけではありません。トイレに歩いていくときにも喜びがありますし、トイレが終わった後にも喜びを感じることができます。食事をとることも喜びの活動です。すべてのアクティビティーの中には喜びがあるということを感じてみてください。
    2つ目は関係性の中での喜びです。仕事のミーティングでも友達との付き合いでも、誰かに接するときには優しい心で接してください。家に帰宅したら優しく子どもに接してください。人と接するときは、相手が誰であってもいつでも優しい心で接することが大切です。それが皆さんの喜びになります。
    3つ目はもっとも大切な喜びです。それは何もない喜びです。ただ水を飲んでいる。その行為にも喜びを感じてください。座る瞑想もそうです。座っていても別に何も起こりませんよね。でも座ることそのものが喜びに満ちている。これが非常に重要です。この何もない喜びは本当に人生を変えてくれます。
    日常の生活の一つひとつの行動に喜びを感じること、誰かと接するときには優しい心で接すること、そして何もない中でも喜びを感じるということ、この3つを忘れないでください。
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宗隆    皆さんに喜びの話をすると、「喜びを感じると少しだけ幸せになります。でも人生を変えるほどではありません。少しの喜びを感じたところで、自分の人生は何も変わらないのですが」とよく言われます。でも喜びは本当に世界を変えるものです。
    私たちが喜びの心で生きることで、憎悪や競争心によってできた今の世界を変えていくことができます。
    自分たちの心の可能性をどれだけ強く信じられるかです。

荻野    本日は豊かなお話をありがとうございました。私もこれから喜びを実践していきたいと思います。ありがとうございました。

(了)

2021年10月3日    Wisdom2.0Japan    オンラインセッション
構成    中田亜希

第2回    宗隆・フォラル師講演「苦しみの終わりを実現する」


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Wisdom2.0Japanカンファレンス2022 開催へ向けて

混沌とした時代の叡智ある生き方を探求する
マインドフルネスのカンファレンス&コミュニティ
10月15日(土)-16日(日)に会場+オンラインで開催

チャディ・メン・タン氏も来日登壇予定!

今年のテーマは、”The inner world changes the outer world."
私たち一人ひとりの内側にある世界の在り方が 、私たちを取り巻く外側の世界を変えていく。
Wisdom 2.0がこれまで発信してきた世界観の根底にある哲学です。

2020年からはじまったパンデミックや今年2月からの世界を巻き込む欧州での戦争、また各地で災害をもたらしている気候変動など、目に見える形で外側の世界が急激に変化をしている時代に、私たちに求められているのは、どれだけ世界が変わろうと、その変化の波に飲み込まれず、その波を乗りこなし私たちの在り方です。それはまた、新たな波を生み出していく起点ともなるでしょう。

その鍵は、私たちの内側にある意志と叡智の発動。
Wisdom2.0Japanは、今年も、世界に真のウェルビーイングをもたらそうとする人類の意志と叡智を発信していきます。


【Wisdom2.0Japan 2022 開催概要】
●日程:2022年10月15(土) 16(日)
●参加方法:オンライン / 会場(Lstay & grow晴海    先着60名限定)
●詳細・申込:https://event.wisdom2japan.com/

【Wisdom2.0Japan 2022 プログラムのご紹介】
10月15日(土)

①「SHOW UP! 〜 マインドフルネスのネクストステップ」
        Pandemic of Love創設者:シェリー・ティゲェルスキー
②「社会共通資本がもたらすこれからの世界のカタチ 〜 経済学者・宇沢弘文氏のWisdom(仮)」
        宇沢国際学館代表取締役:占部 まり(会場参加予定)
③「欧州、中東から見る2030年の世界の未来予想図 〜 一人ひとりの内なる創造性が世界を拓く」
        英国王立国際問題研究所 研究員:玉木 直季(会場参加予定)
④「SEL、マインドフルネスによる教育改革 〜 豊かな日本のための教育者たちの挑戦」
        かえつ有明中学・高校 副校長:佐野 和之(会場参加予定)
        日本SEL(Social Emotional Learning)協会代表理事:下向 依梨
⑤「『世界標準の経営理論』とWisdom 〜 コンパッション、マインドフルネスによる経営実現(仮)」
        早稲田大学大学院 経営管理研究科教授:入山 章栄
        華道家:山崎 繭加(会場参加予定)

10月16日(日)
①「最新テクノロジーとしての原始仏教」
        SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
②「リジェネレーション 〜 気候危機を今の世代で終わらせるための叡智」
        環境保護活動家:ポール・ホーケン
③「パンデミック、戦争との向き合い方 〜 コンパッションで世界に平和をもたらす」
        Upaya Zen Center禅僧:ジョアン・ハリファックス
④「ビジネスにおけるウェルビーイングとマインドフルネス 〜 セールスフォースにおけるウェルビーイングの取り組み」
        プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ
        株式会社セールスフォース・ジャパン:佐藤むつみ
        株式会社セールスフォース・ジャパン:酒寄久美子
⑤「内なるプラクティスと世界平和 〜 マインドフルネスで平和を実現する」
        曹洞宗僧侶:藤田 一照(会場参加予定)
        SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
        プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ

【Wisdom2.0グローバルネットワーク(韓国との共同開催)】
◯Wisdom2.0 創設者:ソレン・ゴードハマー
◯Wisdom2.0Korea創設者:ユ・ジョンウン(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:荻野 淳也(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:木蔵 シャフェ君子(会場参加予定)

【プレイベントのご案内】

Wisdom2.0Japanでは、7月から12月までの半年間、プレイベント、アフターイベントを毎月開催し、マインドフルネスのプラクティスを深めたり、世界のWisdomに触れ、自分の内側をより豊かに育んだり、また、Wisdomに基づく社会変革に関する活動も紹介しております。

●Wisdom2.0 2022 ”EMERGENCE”動画視聴&対話(日本語通訳付)
●書籍『コンパッション』×アクティブ・ブック・ダイアローグ®️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️×マインドフルネス
●「リジェネレーション」をダイジェストで学びマインドフルに探求する
●【購入者限定】マインドフルな対話交流会
●マインドフルネス・リトリート
●企業パートナー様とのコラボイベント

ぜひ、このカンファレンスとコミュニティにご参加ください。

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