アルボムッレ・スマナサーラ(テーラワーダ仏教(上座仏教)長老)

Suttanipātapāḷi     5. Pārāyanavaggo     12. Bhadrāvudhamāṇavapucchā 
※偈の番号はPTS版に準ずる。(        )内はミャンマー第六結集版の番号

一流の学究者16人と、智慧の完成者たるブッダの対話によって導かれた真理を、スマナサーラ長老が現代的に解説していくシリーズ。今回は12人目となるバドゥラーヴダ仙人とお釈迦様の対話をお届けします。全5回の第5回。

第5回:存在したい心、存在したくない心


■質疑応答

    ●両極の間でさまよい続ける

質問者    先ほどの説法にあった「存在欲」と「非存在欲」について質問です。「存在したくない」という思いは、単なる嫌悪や現実逃避ではなく、それ自体も一つの「欲」であるとのことですが、その仕組みをもう少し詳しく教えていただけますか。

スマナサーラ長老    おっしゃる程度の理解で十分です。「存在したくない」という非存在欲も、渇愛の一種なのです。これは、一般の人が「白でなければ黒だ」と考えるような、二元論的な相対世界の話です。

質問者    存在することと存在しないこと、その両極端の概念についておっしゃっているのですね。

スマナサーラ長老    その二つは同じことです。我々が相対世界にいるときは、いつでも両極端の概念がセットで成り立ちます。ですから、存在欲に対して非存在欲というのが成り立つのです。結局のところ、どちらも存在欲なのですけど。「存在したい」「存在したくない」という両極端の存在欲が生命にあって、それがあるから輪廻転生してしまうのだということです。 この問題は、注釈書で論じられています。
    眼耳鼻舌身の対象である五欲を追い求める生命は、五欲の世界(欲界)に生まれるのです。そこで「五欲はろくなものでない」と修行する人々は、第一禅定から第四禅定までの色界禅定を作って、色界梵天に生まれます。色界では、心がずーっと禅定状態に入って安楽にいるのですが、微細なレベルの肉体(色:しき)もまだあるのです。いくら微細なレベルでも、肉体を持つということは煩わしい。そこで、五欲に依存しない色界の身体(からだ)も捨ててしまおうと思って、無色界の禅定を作る人々がいるのだというのです。無色界の禅定をして次に生まれ変わる場合は、無色界梵天になります。無色界では、もう心だけになるのです。心だけの生命というのは、普通、人間には認識できません。認識するためには、特別な瞑想をしなくてはいけないのです。お釈迦様でさえ、心だけの生命と話し合うことはできませんでした。釈尊には、かつての師匠が二人いました。彼らは無色界の禅定に達していたのです。お釈迦様はご自分が覚りに達してから、最初にあの二人の先生に真理を教えてあげよう、と思ったのです。そこで、二人はどこにいるのかと思って探してみたら、既に亡くなられて無色界梵天に生まれ変わっていたのです。そこで、「ああ、残念です」となって、説法することを諦めたと。そうやって、「非存在欲とは無色界に生まれ変わりたいという欲である」というふうに、注釈書ではちょっと無理矢理に解説するのです。

    ●注釈書の解説では「存在」は「肉体」のこと

質問者    そうすると、その場合の「存在」や「非存在」というのは、主に「物質的な肉体(色:しき)」に対する欲望や嫌悪のことを指しているのですね。

スマナサーラ長老    はい。注釈書では、「存在欲」「非存在欲」の「存在(bhava)」とは、物質(色)のことだとしています。「この肉体(色)を壊してしまいたい」「もう身体(からだ=色)などない生命に生まれたい」という欲が「非存在欲」なのだと説明しているのです。相対的な世界の中で「存在することは邪魔だ、苦痛だ」と強く感じた人は、「だったら非存在のほうがいいだろう」となって、簡単に非存在欲のほうに飛びついてしまいます。これもまた、存在欲の罠にはまっている状態なのです。

質問者    相対的な世界のフレームを超えられないから、解脱に達しないということですね。それは「自分がいる」という前提があるから、存在欲・非存在欲が生まれるとも言い換えられるでしょうか?

スマナサーラ長老    そうです。「自分がいる」という実感は錯覚であって、成り立たないカラクリ、捏造だと見抜いたならば、解脱に達します。すべての苦しみが終わるのです。


2017年12月25日    ゴータミー精舎での法話をもとに書き下ろし
構成    佐藤哲朗


第4回:生命とは執着する存在である

お知らせ

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一流の学究者16人と、
智慧の完成者たるブッダの対話によって導かれた真理を、
鮮やかな現代日本語でわかりやすく解説する。

第一巻
Ⅰ    アジタ仙人の問い
Ⅱ    ティッサ・メッテイヤ仙人の問い
Ⅲ    プンナカ仙人の問い
Ⅳ    メッタグー仙人の問い

第二巻
Ⅴ    ドータカ仙人の問い
Ⅵ    ウパシーヴァ仙人の問い
Ⅶ    ナンダ仙人の問い
Ⅷ    ヘーマカ仙人の問い


【以下、第三巻以降に収録予定】

Ⅸ    トーデイヤ仙人の問い
Ⅹ    カッパ仙人の問い
Ⅺ    ジャトゥカンニン仙人の問い
Ⅻ    バドラーヴダ仙人の問い
XIII    ウダヤ仙人の問い
XIV    ポーサーラ仙人の問い
XV    モーガラージャ仙人の問い
XVI    ピンギヤ仙人の問い


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スッタニパータ    第五章「彼岸道品」
第一巻


アジタ仙人の問い/ティッサ・メッテイヤ仙人の問い/
プンナカ仙人の問い/メッタグー仙人の問い

アルボムッレ・スマナサーラ[著]





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スッタニパータ    第五章「彼岸道品」
第二巻


ドータカ仙人の問い/ウパシーヴァ仙人の問い/
ナンダ仙人の問い/ヘーマカ仙人の問い

アルボムッレ・スマナサーラ[著]