熊野宏昭(早稲田大学人間科学学術院教授)
『EQ2.0』&『実践!マインドフルネス』シリーズ 刊行記念
第3回 「することモード」から「あることモードへ:マインドフルネスが導く心の切り替え
マインドフルネス瞑想は、「自分をもっと理解したい」「人間関係を円滑にしたい」といった悩みに答える強力なツールです。呼吸や身体感覚に注意を向けることで、自分の感情や思考を客観的に観察する力が養われます。さらに、周囲の状況や他者の感情にも気づけるようになり、対人関係を調整する力(EQ)も自然と高まります。
この記事では、マインドフルネスを使ってEQ(感情的知性)をどのように高めるのか、マインドフルネス研究の第一人者である早稲田大学人間科学学術院教授の熊野宏昭先生が、具体的な実践方法とともに解説します。
■「することモード」から「あることモード」へのギアチェンジ
私は公認心理師および心療内科医として、患者さんの治療にマインドフルネスを応用してきました。うつ病や不安症、慢性疼痛、その他さまざまなメンタルの問題、さらにはストレスが関係する身体的な問題にも、マインドフルネスは非常に有効です。
マインドフルネスグループ療法では、10〜15人の参加者が集まり、1回あたり1時間半〜2時間かけてセッションを行います。ヨガやマインドフルネス瞑想、ゆっくりとした歩行などを通じて、自分が今どんな体験をしているかに気づき、その気づきを参加者でシェアします。
そして、自分の体験に気づくとはどういうことか、気づく力を高めるためにはどうすればよいか、また「心ここにあらず」の状態がなぜ問題なのか──そうしたことをみんなで共有しながら、現在の自分の体験に気づき、その気づきをそのままにしておけるように練習を重ねていきます。
このグループ療法の出発点はマインドフルネスストレス低減法(MBSR)です。そして、それをうつ病の再発予防に応用したものが、マインドフルネス認知療法(MBCT)です。
マインドフルネス認知療法では、「することモード」から「あることモード」へ心をギアチェンジする練習を行います。
「することモード」とは、一生懸命頭を使って問題解決的に活動している状態です。仕事中は典型的な「することモード」で、この状態が続くと、次第に疲れやストレスが溜まってしまいます。
そのため、ときどき「あることモード」に切り替えることが大切です。「あることモード」とは、自分がいま何を体験しているのかにただ気づいている状態です。
⑴ 気づきと自動操縦
少し図を詳しく見ていきましょう。一番上の「気づきと自動操縦」についてです。
私たちは日頃、効率を求めて生活しています。通勤時間も無駄にせず、頭の中で仕事のシミュレーションをしたり、職場では余計なことをせずにどんどん仕事を進めたりします。これが「自動操縦」の状態です。無意識のうちに時間通りに駅に着けるほど効率的ですが、この自動操縦モードでの時間は、記憶にほとんど残らないのです。
通勤途中くらいなら自動操縦でも問題ないかもしれませんが、丸一日、あるいは2日、1週間、2週間、1カ月、2カ月と自動操縦モードで過ごした場合、果たしてそれで「生きている」と言えるのでしょうか? 私自身も経験がありますが、ふと振り返ると、少し悲しい気持ちになることがあります。
⑵ 頭の中で生きている
図の2番目の「頭の中で生きている」状態について見ていきましょう。
これは、考えの世界に呑み込まれてしまい、リアルな現実世界よりも、自分の頭の中のバーチャルな世界が重みを持ってしまった状態です。誰とも関わらず、ただ自分の頭の中に閉じこもっているため、この生き方も記憶にほとんど残りません。頭の中でぐるぐると思考が巡り、エネルギーを使っているだけで、果たしてそれで「生きている」と言えるのでしょうか?
⑶ 散らかった心をまとめる
図の3番目は「散らかった心をまとめる」です。
私たちは、過去と未来のことばかり考えがちです。「あのときこう言えばよかった」「ああしていればよかった」と後悔したり、明日のことや未来のことを心配したりします。このように今どこにもない過去のことや、まだ来ていない未来のことをずっと考え続けていると、「今」がお留守になって、今を生きられません。
⑷ 嫌悪感を認める
図の4番目「嫌悪感を認める」です。
私たちは、なるべく嫌な思いはしたくない、いつもいい気分でいたいと考えます。そのため、嫌なことはなるべく見ないように心を閉じて回避し、楽しいことだけを追い求めます。不安や落ち込み、痛みはできる限り避けようとしますが、自分の中にある不安の塊は消えません。むしろ、あとで3倍返し4倍返しの反動がやってくるのです。
回避というのは非常に下手なやり方で、かえってエネルギーを消耗します。だから、心を開き、むしろ好奇心を持って、どんなことにも向かっていくぐらいの気持ちのほうがよいわけです。
⑸ そのままでいる
5番目の「そのままでいる」、これも非常に重要です。
4番で、「いま自分は不安になっているな」と認めたとします。すると今度は、その不安を取り除こうと頑張ってしまうんですね。うまくいけばよいのですが、解決できないこともあるわけです。その結果、もがけばもがくほど悪循環に陥り、状況がますます悪化し、不安が大きくなり、対人関係がこじれてしまう──そんなことが起こり得ます。
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『EQ2.0』刊行記念オンラインセミナー「マインドフルネス&EQで磨く新しいリーダーシップ」第2回「マインドフルネスとEQで心の平穏と共感を育てる」を元に再構成
構成:中田亜希
第2回 マインドフルネスの本質:「今ここ」に気づき、現実を受け止める力
第4回 そのままにしておく:マインドフルネスが教える不安との向き合い方
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