熊野宏昭(早稲田大学 人間科学学術院教授)   
小川晋一郎(株式会社Halali 代表取締役)

第3回    納得感を持って生きるために


■感情の時代

小川    今まさに「感情の時代」が来ているのではないかと思います。私はビジネスで人材の領域に長く関わってきましたが、ビジネスの世界ではこれまで「感情を大事にしましょう」というような話って、あまりされたことがなかったと思います。でも近年になってそこがかなり重要視され始めて、マインドフルネスも含めてずいぶん着目されるようになってきました。
「自分の人生はこれでいいのか」と誰しも思うことがあると思います。脚光を浴びているユーチューバーとかSNSでキラキラと自分らしさを表現している人たちを見て、自分はいったいどうやって社会と接点を作っていけばいいんだろうと悩まれる方も多いのではないかと思います。自分がどういう方向に向かって生きていけばいいのかというのも、もやもやする生きづらさの一つではないかと感じています。
    Awarefyは今、熊野先生の仰るマインドフルネスの3つのステップのうち、ステップ1を中心にサポートしていますが、自分の行動とか感情とか、自分が書き溜めたものをヒントにしながら、どういう方向に向かうと自分が気持ちよく、生きやすくいられるのかというところまで、つまり3つのステップを全部サポートできれば、人々の生きやすさのためにもっと寄与することができます。サービスとしてはやはりそれを目指していきたいというふうに思いました。
    突き詰めていくと、やはり目指すところは「この世界でどのように納得感を持って生きていけるか」に尽きます。「どこに向かって生きていけばいいのか」というのは人間ならではの悩みです。動物はおそらくそんなことを考えてはいないですよね。
    自分がどう生きれば納得できるのか、その答えはYouTubeやSNSで活躍する人たちの姿を見ていても得ることはできません。自分の感情と向き合いながら、どういう方向に生きていくのが自分にとっていいのかと決めていくプロセスまで含めて、Awarefyがきちんとサポートできるようにしていきたいと思います。


■つながりから感情が生まれる

熊野    他人と比較するのではなく、自分の感情ですよね。たとえば気持ちがいいとか、これをやりたいとか、なんかちょっと元気が出るぞとか、じわっと嬉しいとか。そういう感情を頼りにして生き方を選択していけるようになっていこうというのは、まさにマインドフルネスも目指しているところだと思います。
    そういった感情がどこから来るのかというと、たぶん人々のつながりの中から来ると思うんですね。人類としての全体のつながりの中から、今どんなふうに生きれば人類は幸せなのか、みたいなところをたぶん感じ取って出てくるものではないかと思います。
    だから、小さい自分にとらわれて「成功しなくちゃいけないんだ」「負けちゃいけないんだ」「うまくやらなくちゃいけないんだ」とか、あるいは「もう自分は駄目なんだ」などいったことを考えていると、たぶんそういう感情は働かない。小さい自分を手放して、いろいろなことが感じ取れるようになってくると、ネットワークとして自分が働くようになると思います。

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熊野宏昭先生
小川    ネットワークですか?

熊野    他の人がいる。自分もいる。ネットワークの点の一つとして自分が動いている。他の人が動けば、自分もネットワークの中で動くし、自分が動けば他の人も動く。そういうつながり、ネットワークが自然と感じられたとき、そこで感情というものが生まれてくるのではないかと思います。
    Awarefyを使ったことによっても、何かつながりみたいなものが感じられるといいですよね。それは安易に「AwarefyのSNSを立ち上げよう!」とかそういうものではなくて、Awarefyを使っていることで、なにか共感の気持ちが生み出されてくるとか、なにか自分の身体感覚の拡張を通して世界の広がりを感じられて、また別の人の世界の広がりともリンクしていくようなことであったりとか、そういったようなイメージです。


■人とつながって自分は存在している

熊野    アプリって流行るアプリとそうじゃないアプリがあるじゃないですか。流行るアプリっていうのはやはりつながりから生まれる感情に訴えかけているものがあるのではないかと思うのですが、いかがですか?

小川    デジタルの特徴は先ほどお話したデータの再利用性が一つと、もう一つはやはりつながりやすくなることですね。今のSNSだとなかなか難しい部分もあるかもしれないですけど、新しい形の共感しやすいつながり方ができれば、また違う身体感覚の拡張の仕方が生まれるのかもしれないとお話を伺いながら思いました。

熊野    たとえば瞑想アプリでも、「今何人の人が瞑想しています」みたいなことが表示されるものがあったりしますよね。それがいいのか悪いのかはちょっとわからないですけど、そういうアイデアも含めて、人とつながって自分は存在しているんだということが感じていけるような仕掛けが生まれてくるといいのではないかと思います。
    デジタルを利用したものはどうしてもバーチャルな世界に偏りがちなので、そういうところでリアルと接続していくことがデジタルならではの形で実現するとよいのではないかと期待しています。

小川    ありがとうございます。次に取り組むべきテーマが見つかりました。


■マインドフルネスと私たちのこれから

小川    熊野先生はこれまで素晴らしいご実績を積み上げられてこられましたが、次はどんなことに挑戦したいと思っていらっしゃいますか。これは純粋に、私の好奇心として気になっているのですが。
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小川晋一郎さん
熊野    具体的に「これ」というのはなくてですね、いつの頃からから「生きているということは前に進んでいくことだ」と思うようになったので、「今、面白いと思っていることをとにかくやっていこう」と思ってずっとやっています。瞑想に関しては、研究によっていろいろなことがわかってどんどん面白くなってきていますので、そういうところを引き続き進めていきたいですし、アプリにもものすごく可能性を感じています。   
    その中でも一番知りたいのは、やはり先ほどのネットワークの話ですね。つながりの中でどうやって我々が存在できるのかというところを、なんとかもう少し理解していけるといいなと思っています。

    我々世代にとって瞑想やマインドフルネスはサブカルなんですよ。でも小川さんのような世代にとってはなんだかメジャーなカルチャーの一つになっちゃっているような感じがするんですけど、そこについてはいかがですか?

小川    私が一般代表なのかはわからないのですが、肌で感じるところはあります。Awarefyをやっていることに対してポジティブな声をたくさんいただきますし、ビジネス界では「サウナで調う」とか「サウナー」といった言葉が流行っていて、これはもはやサブカルではないんですけど、サウナもマインドフルネスの文脈で語られたりしています。
    企業の方とご一緒する機会も多いのですが、大手企業でも従業員のメンタルケアのためにマインドフルネスや瞑想を取り入れてみたいというお話をよく聞きます。アンケートを取っても過半数がマインドフルネスや瞑想に興味があると回答されていました。

熊野    私、最初にHakaliの皆さんから相談を受けたときに、「そんなの絶対に売れないでしょ」と思ったんですよ(笑)
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小川    ははは(笑)。
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熊野    「どうやって売っていくんですか?」と質問した覚えもありますけど、随分売れちゃっているので「あれ?」って(笑)。そこが一番驚きでした。

小川    ぜんぜん広告を打っていないにもかかわらず、毎日のように何百件とダウンロードして使ってくださっているのを見ると、本当に今この時代に、こういったものが求められているんだなとすごく感じます。2、3カ月に1回は雑誌でも取り上げていただいていますので、サブカルではなく、メインで求められていると言ってもいいのではないかと思いますね。

──最後にご視聴いただいている皆様に一言ずつお願いします。

小川    あらためて皆様、今日はありがとうございました。これからもAwarefyというサービスを通じて、生きづらさのソリューションを深掘っていきたいと思っています。私たちも答えがわからないところで模索していますので、ご興味ある方はお気軽にご連絡していただけると嬉しいです。ぜひディスカッションしながら、社会全体でこの問題に取り組んでいければと思っております。

熊野    本日はありがとうございました。いま私たちは時代の大きな岐路に差し掛かっていると思います。次々に新しい動きが出てきて、私たちはその中で生き続けていくことになります。
    今日はちょっと夢物語みたいなことも話しましたが、そういったことがぜひ実現していくような世界になっていくといいなと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。

(了)

2021年10月2日Wisdom 2.0 Japanオンライン対談
構成:中田亜希

第2回    デジタルの可能性


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