〔翻訳〕
木蔵(ぼくら)シャフェ君子( Wisdom2.0Japan 共同創立者 )
第3話
●問題は解決策でもある
気候問題で科学者たちが最初に取り上げたのは、将来的な人類の存亡の危機についてでした。
何度も脅すように言うので、私たちは恐怖に怯えることになりました。
活動家も「人類の恥だ」と私たちの罪悪感を刺激し、⾮難を始めました。シェブロンなやエクソンモービル、GMなどをターゲットにして攻撃しました。恐怖、恥、⾮難、罪悪感などを煽って、世論をざわつかせたのです。
するとどうなったか。
⼈々はただ、⼼を閉ざすしかありませんでした。
あまり認識されていないことですが、すべての問題は実は解決策でもあります。
解決策がない問題はありません。
物事がありのままに存在しているのを見ても、私たちはそれを問題だとは思いません。
実際、夜空に浮かぶ⽉は問題ではないでしょう? ⽉明かりも問題ではありません。好き嫌いはあるかもしれませんが、別に問題ではないのです。
そこに⽬を向けると、世界の⾒⽅が大きく変わります。
●ストレスは人に行動を促すためのもの
私がいたカリフォルニア⼤学サンタバーバラ校は、この会場と同じように薄暗い場所でした。800⼈入れるホールに200⼈くらいの学生がいたと思います。
私は学生たちに「皆さんのうちの70%は、不安や恐怖を感じ、パニックや落ち込みの状態にあり、50%はパートナーを見つけたとしても、家族になるべきなのか、家族を持つべきかどうかに躊躇する」というデータを紹介しました。
人間がストレスを感じると、そのストレスがさらなるストレスを呼び、さらにストレスを呼び、私たちを薬やNetflixに走らせます。
私の仕事は毎朝、気候変動に関する情報やニュースをすべて読むことです。たまには良いニュースもありますが、ほとんどは悪いニュースです。夜に読んだなら、⼀睡もできないと思います。そうでなくても夜中に⽬が覚めるたびに、「ああ、⼤変だ」と青ざめるほどです。私も皆さんと同じように不安や絶望を感じているのです。
しかしストレスは本来、逃避のためにあるのではありません。ストレスは人に⾏動を促すためのものです。それが⽣まれ持った脳の仕組みなのです。
●行動が信念を変える
セッションの冒頭に、「気候変動を信じますか?」と尋ねましたが、あれはひっかけの質問でした。すみません。なぜなら気候科学は信じるかどうかではないからです。
気候変動を否定する⼈たちに「気候変動を信じますか?」と聞くとよくわかります。「信じていない」と言うのです。
スタンフォード⼤学のアンドリュー・ヒューバーマン博士らの研究によって、人の信念が⾏動を変えることはないことがわかっています。信念が行動を変えるのではなく、「人の⾏動が信念を変える」のです。逆なのです。
地球は私たちに「なんでもいいから行動しなさい」と伝えています。洗濯をする時にお湯を使わず水を使うことでもなんでもいいんです。行動すれば、⾃分が変わります。
それだけでなく周りの⼈たちも変わります。
⼈を変えるには、あり⽅と⾏動を変えることが必要なのです。
●もう一つは「話を聞くこと」
科学は素晴らしいものです。しかし私たちは科学と自分の間に線引きをしなければいけません。「わかった。科学には感謝する。さあ、自分の仕事に取り掛かろう」という具合に。
科学に⼾惑ったり、科学に脅かされたり、科学のせいで不安でいっぱいになっている暇はありません。科学は尊重する。だけど、今はそれに翻弄されている時間はないのです。
先ほど、⾏動することが重要だとお話しましたが、もう⼀つ大切なことがあります。
それは「⼈の話に耳を傾ける」ということです。
世界の所得上位10%の⼈々が全温室効果ガスの56%を排出しています。上位1%の人々が排出する量は全排出量の25%です。
皆さんに尋ねます。皆さんのなかで、2030年までに温室効果ガスの排出量を50%削減する計画を既に立てられた方はいますか? そして、それに基づいた⾏動をしていますか?
IPCCによると、2030年までに全世界の人々がそうしなければならないそうです。
私がここで言いたいのは、「世界の人々がそうするためには、私たちは他の⼈に対してオープンでなければならない」ということです。
人の話を聞くのは、⾃分の正当性を主張するためではありません。⾃分が正しいと思った途端、他の誰かは間違っている、という図式になってしまいます。
●すべての軸足を生命に置く
4年前、⼈気報道番組「60 Minutes」で、ハーレムで聖歌隊を率いていたアフリカ系アメリカ⼈の⼥性、ビビアン・ヒギンズが紹介されました。ビビアンは ancestor.com という先祖を探すサービスで⾃分の親族を探していました。もう一人、モーリーというミズーリ州の⽩⼈の⽜飼いも⾃分の親族を探していて、二人が親戚であることが判明し、最後ビビアンとモーリーがミズーリで涙を流して抱き合うシーンが放映されたんです。非常に印象的な番組でした。
リジェネレーション(再生)とは、まさにこれです。すべての⾏動と決断の中⼼に⽣命を据えること。私たちが⾏動する時、発⾔する時、すべて軸⾜を生命に置くということなのです。
持続可能性とか、あれやこれやという外側の話ではありません。大切なのは私たち自身です。
●愛と気候はつながっている
リジェネレーションとは、⽣命の活動です。
これは本来、人間のデフォルトモードです。自分自身を気遣えば、同時に家族や⼦供、おじさん、おばさん、地域社会、隣⼈、ペット、⽝などを気遣うことになります。どんなコミュニティ、どんな教会や寺院に属していたって、それはリジェネレーションなのです。
リジェネレーションとはふるさとに戻ることです。誰かが発表したことや本に書いてある思想を真似て行うことではありません。あなた自身がリジェネレーションなのです。
人の体は37兆の細胞でできています。細胞たちは秒刻みで再⽣しています。でなければ、私の話を聞くことすらできません。そんなはずはないというなら、あなたはすでに死んでいます。
リジェネレーションが⽣命の根幹にあることは、驚くべき奇跡だと思いませんか。
私たちはそのような存在なのです。
広告やメディア、SNS によって分断が激しく高速に進行しています。私たちを取り巻くすべての環境が分断を促すのです。私たちが全体とは異なる固有のアイデンティティを持っているのだと思わせようとしてくるのです。
しかしそうではありません。ホームは⼼であり、つながりとは関係性・愛です。
愛と気候はつながっています。世界を愛するか、愛さないのか。テスラを運転している最中、窓ガラスに止まったカラスの動きの面白さに微笑むのか、あるいはバックミラーに映る自分の髪型を直すだけなのか、その差が気候変動の結果としていずれ現れるのです。
(完)
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2022年4月7日 Wisdom2.0 San Francisco現地会場&ライブストリームにて開催
翻訳 木蔵シャフェ君子
構成 中田亜希
Wisdom2.0サンフランシスコ記事一覧
第1回 ジョン・カバット・ジン 第2回 シェリー・ティギェルスキー 第3回 ポール・ホーケン
第4回 トリスタン・ハリス
Wisdom2.0Japanカンファレンス2022 開催へ向けて
混沌とした時代の叡智ある生き方を探求する
マインドフルネスのカンファレンス&コミュニティ
10月15日(土)-16日(日)に会場+オンラインで開催
チャディ・メン・タン氏も来日登壇予定!
今年のテーマは、”The inner world changes the outer world."
私たち一人ひとりの内側にある世界の在り方が 、私たちを取り巻く外側の世界を変えていく。
Wisdom 2.0がこれまで発信してきた世界観の根底にある哲学です。
2020年からはじまったパンデミックや今年2月からの世界を巻き込む欧州での戦争、また各地で災害をもたらしている気候変動など、目に見える形で外側の世界が急激に変化をしている時代に、私たちに求められているのは、どれだけ世界が変わろうと、その変化の波に飲み込まれず、その波を乗りこなし私たちの在り方です。それはまた、新たな波を生み出していく起点ともなるでしょう。
その鍵は、私たちの内側にある意志と叡智の発動。
Wisdom2.0Japanは、今年も、世界に真のウェルビーイングをもたらそうとする人類の意志と叡智を発信していきます。
【Wisdom2.0Japan 2022 開催概要】
●日程:2022年10月15(土) 16(日)
●参加方法:オンライン / 会場(Lstay & grow晴海 先着60名限定)
●詳細・申込:https://event.wisdom2japan.com
【Wisdom2.0Japan 2022 プログラムのご紹介】
10月15日(土)
①「SHOW UP! 〜 マインドフルネスのネクストステップ」
Pandemic of Love創設者:シェリー・ティゲェルスキー
②「社会共通資本がもたらすこれからの世界のカタチ 〜 経済学者・宇沢弘文氏のWisdom(仮)」
宇沢国際学館代表取締役:占部 まり(会場参加予定)
③「欧州、中東から見る2030年の世界の未来予想図 〜 一人ひとりの内なる創造性が世界を拓く」
英国王立国際問題研究所 研究員:玉木 直季(会場参加予定)
④「SEL、マインドフルネスによる教育改革 〜 豊かな日本のための教育者たちの挑戦」
かえつ有明中学・高校 副校長:佐野 和之(会場参加予定)
日本SEL(Social Emotional Learning)協会代表理事:下向 依梨
⑤「『世界標準の経営理論』とWisdom 〜 コンパッション、マインドフルネスによる経営実現(仮)」
早稲田大学大学院 経営管理研究科教授:入山 章栄
華道家:山崎 繭加(会場参加予定)
10月16日(日)
①「最新テクノロジーとしての原始仏教」
SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
②「リジェネレーション 〜 気候危機を今の世代で終わらせるための叡智」
環境保護活動家:ポール・ホーケン
③「パンデミック、戦争との向き合い方 〜 コンパッションで世界に平和をもたらす」
Upaya Zen Center禅僧:ジョアン・ハリファックス
④「ビジネスにおけるウェルビーイングとマインドフルネス 〜 セールスフォースにおけるウェルビーイングの取り組み」
プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ
株式会社セールスフォース・ジャパン:佐藤むつみ
株式会社セールスフォース・ジャパン:酒寄久美子
⑤「内なるプラクティスと世界平和 〜 マインドフルネスで平和を実現する」
曹洞宗僧侶:藤田 一照(会場参加予定)
SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ
【Wisdom2.0グローバルネットワーク(韓国との共同開催)】
◯Wisdom2.0 創設者:ソレン・ゴードハマー
◯Wisdom2.0Korea創設者:ユ・ジョンウン(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:荻野 淳也(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:木蔵 シャフェ君子(会場参加予定)【プレイベントのご案内】
Wisdom2.0Japanでは、7月から12月までの半年間、プレイベント、アフターイベントを毎月開催し、マインドフルネスのプラクティスを深めたり、世界のWisdomに触れ、自分の内側をより豊かに育んだり、また、Wisdomに基づく社会変革に関する活動も紹介しております。
●Wisdom2.0 2022 ”EMERGENCE”動画視聴&対話(日本語通訳付)
●書籍『コンパッション』×アクティブ・ブック・ダイアローグ®️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️×マインドフルネス
●「リジェネレーション」をダイジェストで学びマインドフルに探求する
●【購入者限定】マインドフルな対話交流会
●マインドフルネス・リトリート
●企業パートナー様とのコラボイベント
ぜひ、このカンファレンスとコミュニティにご参加ください。
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