WEBサンガジャパン

2022/10/13 07:00

〔Wisdom 2.0〕第３回「リジェネレーション再⽣：気候、⼈間の意識と正義」（Regeneration: Climate, Consciousness, & Justice）

〔翻訳〕
木蔵（ぼくら）シャフェ君子（ Wisdom2.0Japan 共同創立者）

世界にマインドフルネスムーブメントを広げた国際カンファレンスWisdom2.0。
2022年は「EMERGENCE」をテーマに開催されました。
サンガ新社は、Wisdom2.0Japanのご協力のもと、皆様と共に考えていきたいセッションを４つピックアップてお届けします。

第３回は、気候変動の研究者であり、環境活動家でもあるポール・ホーケン氏です。ホーケン氏はサンフランシスコのWisdom2.0にここ数年連続して登壇されており、新しい常連スピーカーのお一人となっています。
著書の『ドローダウン』と続編の『リジェネレーション（再生）』は世界中でベストセラーとなりました。
気候変動に関する状況や解決の方向性について、そして私たちがこの危機を乗り越えるために、何をどこからどのように始めたらいいのか。このセッションではそれらについての重要なヒントが、叡智あるあり方で示されます。

第１話

●はじめに

最初に、皆さんに質問をしたいと思います。
皆さんのなかで地球温暖化を信じていない方はいますか？⼿を挙げてください。はい、わかりました。
では、もう1つ質問です。

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ポール・ホーケン氏
国連の気候変動に関する政府間パネル（IPCC）が作成した「1.5℃特別報告書」をご存知でしょうか。これを皆の協力によって達成できると思う方、手を挙げてください。今世紀中に温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にしなければ、産業革命前からの気温上昇が２℃を超える可能性が非常に高いと言われています。おお、そうですか。わかりました。もう⼿遅れだと諦めている方もいらっしゃるようですね。
ちなみに摂氏1. 5℃が華⽒で何℃になるかをご存知の方は？手を挙げてくださいね。なるほど、あまりいませんね。気候変動の問題は、私たちがあまり理解できない単位を使っていると。病院に行くと、時々医者は私たちにわからない言葉で説明したりもしますけど、あまり嬉しくないですよね。気候変動は地球の問題ですから、なおさらです。ほとんどの⼈が理解できない単位を使っているというのはちょっと疑問ですね。摂⽒1.5℃は華⽒2.7℃です。

●役に立つかどうか

「ドローダウン」（削減・縮小・ピークからの低下。転じて地球温暖化を逆転させること）と「リジェネレーション」（再⽣）が私にとって重要なコンセプトになったのは、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件がきっかけでした。
テレビで世界貿易センターが崩壊する様子をご覧になった方も多いと思います。ジェット機が最初にノース・タワーに、そして次にサウス・タワーに突入しました。そしてしばらくしてタワーが崩壊。その様子を見て、私は世界が完全に変わってしまったことを悟りました。
なぜそんなことが起きたのか、誰も知りませんでした。
私はその日、ずっと考えていました。これからいったいどうなるのだろうか。この事件は人類史上、非常に重要なポイントになるだろう。では私自身は残りの⼈⽣をいったいどのように過ごせばいいのだろうか。
考えに考えました。そして「そうだ、⾃分にできることは、ただ役に⽴つことだ」と閃いたのです。
役に立つか立たないかを唯一の指針にする。「自分がやろうとしていることは役に立つのか？」と常に問いかけて、役に立たならやらなければいい。それでいいのだと。
私はあの日を境に、そのようなシンプルな指標を持って生きることになりました。

●ゴールはドローダウンしかないはず

気候変動に関する政府間パネル（IPCC）は1990年に第一次評価報告書を、そして1995年に第二次評価報告書を、そして2001年に第三次評価報告書を作成しています。
皆さんは第３次評価報告書の内容をご存知でしょうか。読んでみるとその内容は、それまでにも増して悲観的な内容となっています。
ご存知の通り、合意によるサイエンス（consensus science）というものは存在しません。科学は実証的なものであり、合意に基づくものではないからです。
しかし、第３次評価報告書を読むと、サイエンスが政治に毒されていることがよくわかります。サウジ、ベネズエラ、中国、ロシア、そしてアメリカさえも「まあ、実際そんなに悪くはないんだけど」と⾔わんとしているかのようでした。
私は報告書を読んでいるうちに、2つのことに気づきました。
１つは、誰もゴールを設定していないということ。一応、「緩和（mitigation）がゴールである」とは書かれてあります。しかし緩和がゴールであるとはいったいどういう意味なのでしょうか。緩和とは何かの痛みを軽減することですよね？
他にも「気候変動に取り組む」とか、「気候変動と戦う」といった表現もありましたが、これはどう考えてもゴールではありません。
ゴールは「地球温暖化を逆転させること（ドローダウン）」以外にはないはずです。なのにドローダウンをゴールとしないのは、いったいどういうことなのでしょうか？

●『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』

私は企業や研究所、⼤学やNGOなどを回って、「地球温暖化を逆転させるためのソリューションを早急にモデル化し、そのロードマップを作る必要がある」と訴えました。
企業や研究所に行って私は尋ねました。「地球温暖化を逆転させるために皆さんができることは何かありますか？思いつきますか？」と。するとたとえば「洗濯機で冷たい⽔を使うこと。温水ではなく」という答えが返ってきます。もちろんこれはいい答えですよ。しかし同じ人が、「家にはぜひコンセントを付けましょう」と皆に推奨したりしているのです。電化製品がない場合は、コンセントのためにテレビを買えというのでしょうか？頭が痛いです。
私は何年も何年も主張し続けました。しかし、地球温暖化を逆転させるための明確な解決法を提示してくれる企業や研究所は一向に見つかりませんでした。やり方がわかっていて、技術もあって、実践することができる存在はどこにもなかったのです。
そこで2013年、私自身がそれをやることになりました。
私だってやり⽅は知りませんでした。みんなに「そんなに言うならあなたがやってください」と頼まれた時、「やり⽅がわかっていれば、何年も企業や研究所にお願いに行っていませんよ」と⾔ったくらいです。
それで私は何人かの人に集まってもらって解決法を模索することにしました。
そうやってできたのが2017年に出版した『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』（英語版：Penguin Books、日本語版：山と渓谷社）です。

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2021年には続編として『Regeneration リジェネレーション再生気候危機を今の世代で終わらせる』（英語版：Penguin Books、日本語版：山と渓谷社）を出版しました。
『Regeneration』は、ジャック・コーンフィールド、タラ・ブラック、コンダ・メイソンに大きな影響を受けて書いた本です。仏教の教えの本ではありませんが、仏教から学んだ内容であることは間違いありません。

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（第２話につづく）

https://online.samgha-shinsha.jp/contents/0e21cdc0feab

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