シェリー・ティギェルスキー


〔翻訳〕
木蔵(ぼくら)シャフェ君子Wisdom2.0Japan 共同創立者 )

第2話


■庭の手入れから始めよう!

    私は何年もWisdom2.0に出席してきましたが、1つ気になっていることがあります。それは私たちの多くが内面のワークのループから抜け出せないということです。ハムスターと同じですね。Wisdom2.0に集う多くの皆さんは自分を高めるためにたくさんの資格を持っていると思います。さまざまなリトリートにも参加していることでしょう。本当に素晴らしいことだと思います。
    でも、もしあなたが「誰かを助けるために立ち上がる」という目的もなく座っているとしたら、いったい何のために瞑想しているのでしょうか?    いつになったら全部の準備が整うんですか?    いつになったら完全に心が癒されるのでしょうか?

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    いつまで待っても、それはあり得ません。
    だから今日立ち上がりましょう。まずは小さく始めれば良いのです。あなたの手が届く範囲で、庭の手入れをしてみるのです。

    あなたの手が届く範囲で庭の世話をしましょう。(tend to the area of the garden that you can reach.)

    これが今日、私が皆さんにお伝えしたかった仏教の言葉です。
    私は別に世界的な組織を立ち上げようと思って今の活動を始めたわけではありません。「SQLサーバーとかいうわからないものを設計して、ダッシュボードを作って……」と考えていたら、いつまで経っても始められなかったと思います。
    そうではなくて、小さなことから始めるんです。周囲の人々が大丈夫であるよう支えること。すると支えられた人は今度、周囲の人々を支える側に回るでしょう。支え、支えられて、支える。その繰り返しが始まるのです。

■マインドフルネスによって目覚める

    ジョセフ・キャンベルは宇宙を大きな円として描写しました。
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    私たちが気付けない無意識は直線の下側、そして気づける全てが直線の上側にあります。
    私たちが恐怖や怒り、非難や絶望のなかで生きているとき、あるいは自分は何をするにも不十分だと考えて希望と価値を失うと、この線の下側の存在になります。
    しかし私たちがマインドフルネスという内なるワークを実践して自己認識するようになると、直線の上側に浮かび上がります。時には停滞することもあるでしょう。しかしいずれ私たちは水面から顔を出すことができます。最初は息を切らしていても、やがて救命ボートに乗れるかもしれません。
    マインドフルネスを実践されている皆さんがその旅路のどの地点にいたとしても、誰もが「自分が何者になろうとしているのかわからない」というトランス状態から目覚めつつあるのは確かです。
    自分の感情に気づくようになり、それが何であるかわかるようになる道の途中にいるのです。

■RAIN: ラディカルなコンパッション実践のために

    私が「Show up!」のためにいつも使っているテクニックをシェアさせてください。これはもう、私にとっては通常モードになっているものです。絶望したとき、CNNの緊急ニュースを見たとき、世界や自分のコミュニティや家庭の状態に恐怖や怒りを感じたとき、私はいつもこれを実践します。私はこのテクニックを「After The RAIN(雨上がり)」と呼んでいます。
    RAINというのは、『ラディカル・セルフ・コンパッション』の著者であるタラ・ブラック発案のプラクティスです。4つの英単語の頭文字をとってRAINです。マインドフルネス界隈の人たちは頭文字を使うのが大好きですよね(笑)。
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「R」はrecognize。recognizeの意味は、「自分が何を感じているか、それを体のどこで感じているかを認識する」ということです。自分の感じていることが、どんな行動を起こすかも認識します。
「A」はallow(許可)またはaccept(受け入れ)です。認識したことを嫌がって払い除けるのではなく、受け入れるためのスペースを作るということですね。
「I」はinvestigate(調査)。何が起こっているのかをありのままに理解するために、たとえ怖くても、好奇心を持って自分に付着したばかりのエイリアンとコンタクトをとってみるということです。
    最後の「N」はnurture(慈しむこと)ですね。私たちが認識したものに対して穏やかな優しさを持って慈しむということです。
    RAINについてより詳しく知りたい方は、タラ・ブラックのウェブサイト(https://www.tarabrach.com/rain/)に素晴らしい資料がありますのでぜひご覧ください。
タラ・ブラックは「慈しむことによって、私たちは感情にとらわれるのを緩めることができる」と言いました。RAINを実践したあと休息して、注意力とゆとりや優しさを取り戻せたなら、前に進める道が創られることでしょう。

■それは愛に基づいている?

    RAINの実践はそれで終わりではありません。ドリー・パートンは「雨の後には虹がかかる」と言いました。
    私の20年来の指導者であるシャロン・サルツバーグ先生にRAINのプラクティスについて話をした時、先生は「ああ テンド・アンド・ビフレンド(tend and befriend)のことね」と仰いました。これは「親和的ストレス反応」の一つであり、人間がストレスに面して仲間との繋がりを強くする、という観察に基づいた理論です。
    脅威を感じると人は団結します。特に女性に多く見られる傾向です。子供たちや弱いつながりを持つ人たちをケアして生存を確保し、安心・安全のために他の人と仲間になるのです。
    これは所属に関わる神経回路によって支えられているそうです。私は脳科学者ではないので、皆さんにわかりやすくお伝えするためにこれを「共感行動」と呼んでいます。

    RAINで自分が抱いている感情を特定したら、どうすれば愛に基づいてそれに向き合うことができるのかを考えます。もし世界で起きていることに怒りを感じていると気づいたら、「この人に怒りをぶつけよう、メールで自分の気持ちをそのまま伝えよう」と思うかもしれません。その時に重要なのは、「どうすれば愛に基づいて向き合うことができるのか?」です。シンプルですよね。そのメールに愛があるとは言えないなら送らない方がいいでしょう。書くだけ書いて、送らずにおくことだってできると思います。

    私のコミュニティ「Pandemic of Love」でも「どうすれば愛に基づいて向き合うことができるのか?」という考えがとても役に立ちました。
    かつて私が地域の人から「私にできることはない?」というメールを受け取った時、「そんなの私にだってわからないわ。なんで私に聞くのよ」と思ったものです。私自身、世界で何が起こっているのかわからず、絶望を感じていました。皆さんも2020年3月を思い出してみてください。この状況がもっとひどくなるのか、いつまで続くのか、まったくわかりませんでしたよね。十分な感染防止策もない状態で、わけもわからずスーパーで買ったものを消毒していました。
    私は不安でした。地域の人たちや家族、一人暮らしの母のことも心配でした。
    それで自問自答したんです。「私は自分が手の届く庭でどんなお世話ができる? 私には具体的に何ができる?」
    ひらめいたのは「そうだ!    人と人をつなげることならできる」ということでした。助けを求めている人と、何かしたいと思っている人をマッチングすればいい。極々シンプルなことです。でも、テクノロジーを使ってそれをどう実現すればいいんだろう?    膨大なメッセージにいちいち自分で対応しなくていいようにするにはどうすればいいんだろう?
    私は「どうすれば愛に基づいて向きあえるか」を考えました。私がお金を受け取って、それを他の人に送るなんてことはしたくない。その人が愛ある行動をするよう促すほうがいい。そうだ、それを実現するために、支援したい人と支援を受け取りたい人が直接つながるようにしよう。
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    つい最近、私自身も愛に基づく行為に助けられました。私がウクライナ人サポートのためにポーランドに行く直前、友達からメールが届きました。「シェリーをサポートするために私にできることはない? どうすればシェリーのためにshow upできる?」と。友人は「自分の手の届く範囲で庭の世話をするわよ!」と声を掛けてくれたんですね。私は言いました。「一緒にポーランドに来て!」と。すると彼女は「わかった!」と言って、すぐに飛行機のチケットを手配し、同行してくれました。

    マインドフルネスを実践している人も、多くの人が行動に移せないでいると思います。チャンスはあるのに自分で立ち上がるのを阻んでいるのです。
    皆さんも立ち上がってみませんか?

■ノートPCを提供してください

    セッションに参加してくださっている皆さんに、今日は1つだけお願いがあります。私たちはウクライナで救援活動を行っています。マリウポリなど危険な場所にも向かっています。先日はウクライナからアフリカの学生を全員救出しました。それ以外にも助けを必要としている学生や子供を日々救出しています。
「Pandemic of Love」は グローバル・エンパワーメント・ミッションと提携し ポーランドに1億500万ドル(約140億円)の援助を約束しました。ポーランドの大統領夫人の財団と一緒に活動しています。
    ポーランドにはAirbnbによって住む場所を提供されたウクライナの子供たちがたくさんいます。子供たちにいま必要なのはノートパソコンです。子供たちが勉強を再開するのにどうしても必要です。シェルターの簡易ベッドに住んでいる子供も大勢います。もし皆さんが使用可能なノートPCをお持ちでしたら、あるいはノートPCが入手可能でしたらぜひ私に直接連絡をください。
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シェリーさんの連絡先
■伝えたい3つの言葉

    最後に皆さんに3つの言葉をお伝えしたいと思います。
    1つ目です。私は人生において何かを始めたいと思った時に、それを阻むもの(参入障壁)があってはならないと思っています。ですから今日は本をたくさん持ってきました。
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    私の本を買う金銭的余裕がない人にはセッションの後で本を無料でお贈りします。
    2つ目です。もし今日のセッションから1つだけ学びを持ち帰っていただくなら、「毎日瞑想しているのに具体的な行動につながっていないなら、いったいあなたは何のために坐っているのか?」という問い、これをぜひ持ち帰ってください。
    3つ目です。タルムード(ユダヤ教の口伝律法)の中からの引用です。

    世界の悲しみの膨大なことにひるむな。
    今、正しく行い、慈悲を愛し、謙虚に歩め。
    その目的を完了させる義務はないが、
    それを放棄してよいわけでもない。


    私たちの人生の目的は「愛すること」です。愛すること、つまりそれはshow upし続けることです。向き合い続け、行動し続け、この世界に愛が広がり、愛が溢れるように行動することです。
    この地球上にある苦しみは、私たちの内面の苦しみが外側に反映されたものです。内面に苦しみを持ちながら、それにコミットできなかった何十億もの人間の蓄積です。
    まず私たち一人ひとりが自分自身を見捨てないとコミットすること。池に小石を投げ入れれば、波紋は広がっていきます。

    みなさん、逆テロリストになることを約束してください。
    私は皆さんに愛の行為の陰謀や計画を企ててほしいのです。そして愛の火種を起こし溢れさせるためにコミットしてほしいと心から願っています。
    ご静聴ありがとうございました。

(完)

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2022年4月7日    Wisdom2.0 San Francisco現地会場&ライブストリームにて開催
翻訳    木蔵シャフェ君子
構成    中田亜希

Wisdom2.0サンフランシスコ記事一覧


第1回 ジョン・カバット・ジン

第2回 シェリー・ティギェルスキー 第3回 ポール・ホーケン
第4回 トリスタン・ハリス




シェリー・ティギェルスキーさんは、2022年10月15・16日に実施されるWisdom2.0Japanでも「Show Up!マインドフルネスのネクストステップ」のテーマで初登壇予定です!

詳細はこちら↓



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Wisdom2.0Japanカンファレンス2022 開催へ向けて

混沌とした時代の叡智ある生き方を探求する
マインドフルネスのカンファレンス&コミュニティ
10月15日(土)-16日(日)に会場+オンラインで開催

チャディ・メン・タン氏も来日登壇予定!

今年のテーマは、”The inner world changes the outer world."
私たち一人ひとりの内側にある世界の在り方が 、私たちを取り巻く外側の世界を変えていく。
Wisdom 2.0がこれまで発信してきた世界観の根底にある哲学です。

2020年からはじまったパンデミックや今年2月からの世界を巻き込む欧州での戦争、また各地で災害をもたらしている気候変動など、目に見える形で外側の世界が急激に変化をしている時代に、私たちに求められているのは、どれだけ世界が変わろうと、その変化の波に飲み込まれず、その波を乗りこなし私たちの在り方です。それはまた、新たな波を生み出していく起点ともなるでしょう。

その鍵は、私たちの内側にある意志と叡智の発動。
Wisdom2.0Japanは、今年も、世界に真のウェルビーイングをもたらそうとする人類の意志と叡智を発信していきます。


【Wisdom2.0Japan 2022 開催概要】
●日程:2022年10月15(土) 16(日)
●参加方法:オンライン / 会場(Lstay & grow晴海    先着60名限定)
●詳細・申込:https://event.wisdom2japan.com

【Wisdom2.0Japan 2022 プログラムのご紹介】
10月15日(土)
①「SHOW UP! 〜 マインドフルネスのネクストステップ」
        Pandemic of Love創設者:シェリー・ティゲェルスキー
②「社会共通資本がもたらすこれからの世界のカタチ 〜 経済学者・宇沢弘文氏のWisdom(仮)」
        宇沢国際学館代表取締役:占部 まり(会場参加予定)
③「欧州、中東から見る2030年の世界の未来予想図 〜 一人ひとりの内なる創造性が世界を拓く」
        英国王立国際問題研究所 研究員:玉木 直季(会場参加予定)
④「SEL、マインドフルネスによる教育改革 〜 豊かな日本のための教育者たちの挑戦」
        かえつ有明中学・高校 副校長:佐野 和之(会場参加予定)
        日本SEL(Social Emotional Learning)協会代表理事:下向 依梨
⑤「『世界標準の経営理論』とWisdom 〜 コンパッション、マインドフルネスによる経営実現(仮)」
        早稲田大学大学院 経営管理研究科教授:入山 章栄
        華道家:山崎 繭加(会場参加予定)

10月16日(日)
①「最新テクノロジーとしての原始仏教」
        SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
②「リジェネレーション 〜 気候危機を今の世代で終わらせるための叡智」
        環境保護活動家:ポール・ホーケン
③「パンデミック、戦争との向き合い方 〜 コンパッションで世界に平和をもたらす」
        Upaya Zen Center禅僧:ジョアン・ハリファックス
④「ビジネスにおけるウェルビーイングとマインドフルネス 〜 セールスフォースにおけるウェルビーイングの取り組み」
        プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ
        株式会社セールスフォース・ジャパン:佐藤むつみ
        株式会社セールスフォース・ジャパン:酒寄久美子
⑤「内なるプラクティスと世界平和 〜 マインドフルネスで平和を実現する」
        曹洞宗僧侶:藤田 一照(会場参加予定)
        SIY(Search Inside Yourself)創設者:チャディ・メン・タン(会場参加予定)
        プラムビレッジ ダルマティーチャー:シスター・チャイ

【Wisdom2.0グローバルネットワーク(韓国との共同開催)】
◯Wisdom2.0 創設者:ソレン・ゴードハマー
◯Wisdom2.0Korea創設者:ユ・ジョンウン(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:荻野 淳也(会場参加予定)
◯Wisdom2.0Japan共同創設者:木蔵 シャフェ君子(会場参加予定)

【プレイベントのご案内】

Wisdom2.0Japanでは、7月から12月までの半年間、プレイベント、アフターイベントを毎月開催し、マインドフルネスのプラクティスを深めたり、世界のWisdomに触れ、自分の内側をより豊かに育んだり、また、Wisdomに基づく社会変革に関する活動も紹介しております。

●Wisdom2.0 2022 ”EMERGENCE”動画視聴&対話(日本語通訳付)
●書籍『コンパッション』×アクティブ・ブック・ダイアローグ®️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️️×マインドフルネス
●「リジェネレーション」をダイジェストで学びマインドフルに探求する
●【購入者限定】マインドフルな対話交流会
●マインドフルネス・リトリート
●企業パートナー様とのコラボイベント

ぜひ、このカンファレンスとコミュニティにご参加ください。

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